実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ウォーリアー&ウルフ(狼災記)』(田壯壯)[C2009-50]

シネマライズで、田壯壯(ティエン・チュアンチュアン/ティエン・ジュアンジュアン*)監督の『ウォーリアー&ウルフ』(公式)を観る。原作は井上靖の『狼災記』だが未読。原作小説が『狼災記』で映画の原題も“狼災記”なのに、わざわざカタカナタイトルをつける配給会社の意図が全くわからない。

秦の時代の崑崙山脈あたりを舞台にした時代劇。司令官の陸沈康(オダギリジョー)、将軍の張安良(庹宗華(トゥオ・ゾンホワ*))、ハラン族の女(マギー・Q)の三角関係を描いたもの。前半は、陸沈康と張安良のなれそめからその後のラブラブぶりが描かれるのだが、ここはけっこうわかりにくい。ただでさえ顔を判別しづらい時代劇なのに、画面が異様に暗く、人物を見分けにくい。時間軸を交錯させているのは、ふたりのラブラブぶりを効果的に描くためだと思うけれど、主要な人物はこのふたりだけだということを最初にはっきりさせておいてくれないと、ついていくのがしんどい。また、時おり状況説明の字幕が縦に出るのだが、気づくのが遅れるうえにすぐに消えてしまって読み切れない。

張安良と離れた陸沈康が、ハラン族の女とひたすらやりまくる後半になると、今度は時間軸の交錯もほとんどなく、かなり単調な展開になる。マギー・Qに魅力が感じられないため、エロティックな盛り上がりに欠けるのが問題。異民族に見えてかつ脱げる人ということでマギー・Qになったのかもしれないが、顔はどうせよく見えないし、舒淇(スー・チー/シュー・チー*)とかだったらよかったのに。

その後ふたりが狼になってしまうところは、「ジョーさん、しっぽが生えてるわよ」「おやマギーさん、ずいぶん毛深くなっちゃったね」といった展開を期待したのに、一挙に本物の狼になっていた。最後の、二匹の狼と庹宗華とのシーンはなかなかよかったけれど、狼ってほとんど犬と区別がつかないので、見た目のインパクトに欠ける。

ところどころ挿入される風景や外でのシーンは、人がシルエットのように見えるコントラストの強い映像や、墨絵のような雪のシーン、大砂塵など、映像がとても美しく、これがいちばんの見どころ。