実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『やくざの墓場 くちなしの花』(深作欣二)[C1976-12]

同じく銀座シネパトスの特集「梶芽衣子スタイル その魅力にはまる」(チラシ)で、深作欣二監督の『やくざの墓場 くちなしの花』を観る。

やくざの墓場 くちなしの花 [DVD]

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この映画を初めて観たのが1990年12月1日であるということはなぜかはっきり憶えているのだが、内容はほとんど憶えていなかった。今回、梶芽衣子特集で再見のチャンスを得たわけだが、梶芽衣子が出ていたことも憶えていない。この映画のあとで『流れる』[C1956-14]を観てしまった、ということもあるかもしれないけれど、そのときはあまりピンとこなかったような気がする。まだヤクザ映画初心者で、それまでマキノや加藤泰の端正な映画ばかり観ていたので、深作初体験にはちょっとついていけなかったのかもしれない(いや、『復活の日』や『上海バンスキング』や『華の乱』[C1988-11]は観ていたけれど、それは「深作を観た」とは言わないよね?)。

ところが、今回再見したらうめちゃくちゃおもしろかった。主演の渡哲也はヤクザではなく刑事。別に悪徳刑事ではなく、自分の信念に基づいて行動しているうちに、ヤクザの梅宮辰夫と兄弟分になったり、賭場に出入りしたり、若頭の奥さん梶芽衣子とデキちゃったりして破滅していく。渡哲也にはどこか狂気をはらんだような雰囲気があり、基本的には自分の信念に基づいていても、どこか理性ではコントロールできないものに押し流されて堕ちていく感じがあってすごくよかった。このような狂気は、テレビにたくさん出るようになってから、あるいは石原プロの顔になってから、すっかり見られなくなってしまって残念。

相手役の梶芽衣子もなかなかよかった。バリバリに個性的な役よりも、これや『仁義なき戦い 広島死闘篇[C1973-12]みたいなちょっとおとなしめの役のほうが、逆に個性が光るように個人的には思う。ただし「くちなしの花」のイメージではなかった。タイトルは後づけらしいのでまあいいが、エンディング・クレジットで『くちなしの花』が流れて、映像は本篇の「ラブシーン特集」だったのには苦笑した。

いかにも笠原和夫脚本らしいお話で、警察OBのもつ権力、警察と暴力団の癒着、府警と所轄署の対抗関係や力関係などが複雑に絡みあって描かれているのがおもしろかった。最近も、警察OBが疑惑のクリニックに再就職して捜査情報を流していたという事件があったが、やっぱり警察もヤクザもみんなつながっているんだと納得させられる、すごくリアルな映画。佐藤慶が警察OBの悪徳金融業者だったり、成田三樹夫が府警の幹部だったり、室田日出男が警部補だったり、金子信雄が警察署長だったり、キャストもヤクザと警察の区別がわからない感じでよい。

また、渡哲也が満洲からの引揚者、梶芽衣子朝鮮半島からの引揚者で半分朝鮮人、梅宮辰夫が朝鮮人という設定なのが興味深い(そういえば、前回は「在日の表象」とかそういう特集で観たのかも)。

もうひとつ特筆すべき点は、パンダのぬいぐるみが出てくるパンダ映画であったこと。たしか、組長の藤岡琢也の家族が買い物から帰ってきた車の中にあった。パンダのぬいぐるみは『仁義なき戦い[C1973-13]にも出てくるが、あの時代、いかに「ぬいぐるみといえばパンダ」だったかを物語る点でも興味深い。

今の香港(いや、返還前でもいいですよ)に舞台を移してもすぐに成り立ちそうな映画なので、ぜひ甄子丹(ドニー・イェン)主演でリメイクしてもらいたい。監督は葉偉信(ウィルソン・イップ)でいいです。