実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『雨夜 香港コンフィデンシャル(Amaya)』(Maris Martinsons)[C2010-58]

フィルムセンターの特集「EUフィルムデーズ2011」(公式)で、マリス・マルティンソンス監督の『雨夜 香港コンフィデンシャル』を観る。

この映画で最も衝撃的なのは冒頭である。「25年前、ある日本人女性が中国人男性と恋に落ちて結婚し、香港に住みついた」という内容のテロップが出る。桃井かおりが主演なのを知っているわたしは、「この日本人女性は桃井かおりだろう」と思う。個性派ではあるが、いちおう美人女優である。「美人女優が恋に落ちる中国人男性ってどんなにいい男か」などと思いを巡らしているうちに、その夫婦の現在の姿が映る。日本人女性はやはり桃井かおりである。で、中国人男性は?

中国人男性は許紹雄(ホイ・シウホン)である。ランニングに短パンという、典型的な香港のおっさんの格好をしている。そりゃあ25年前はそうではなかっただろう。それにランニングのおっさんにだって恋に落ちる権利はある、たぶん。でもね、でもね…。単に「結婚した」ではいけなかったんだろうか。

映画は、6人の、日本人や、香港人だか中国人だかや、ラトビア人だかリトアニア人だかの人生が交錯する話。舞台は香港で、監督はラトビア人。映画の意図がどうこうといったことは言いたくないが、この映画はいったいどういう経緯で構想されたのかがすごく気になってしまう。桃井かおりの名前が雨夜(あまや)で、劇中ポール(アンドリュス・マモントバス)が、「南米(チリだっけ?)で‘Amaya’という看板を見かけて、それが日本の女性の名前だと知った」という話をするけれど、もしこれが実話や監督の実体験に基づくものだとしたら、監督は最初の一歩から間違っている。「あまや(雨夜)」なんて名前の日本人女性は、いないとは断言できないけれど極めて稀なのだから。

部分部分はおもしろかったり印象的だったりするものの、全体としては散漫で、総じてポールが出てくる部分がおもしろくない。特にいけないのは、ポールと元カノのエピソード。観念的で、悪い意味でヨーロッパ的。あれは大嶼山(ランタオ島)のロープウェイなんだろうか。あまり魅力的に撮られてはいなかったけれど、あれはいつか乗ってみたい。

香港の街が香港っぽい猥雑さを感じさせないが、かといっていかにも欧米の監督が撮りそうな感じでもなく、その点わりとオリジナルな味わいがあるような気もする。出てくるのがクリーニング屋と足裏マッサージ屋というのもおもしろいが、クリーニング屋は欧米における典型的な中国人イメージだし、足裏マッサージはもしかしたら現代の香港のイメージとしてメジャーなのかもしれないので、実は欧米人が見た典型的な香港イメージなのかもしれない。

日常会話は広東語の桃井かおりが、時々いかにも桃井かおり風に日本語でつぶやくのがおもしろかったけれど、アタマが字幕モードになっているため、聞き取れないことがあって困った。