実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『処刑剣 - 14 BLADES(錦衣衛)』(李仁港)[C2010-56]

シネマート六本木で、李仁港(ダニエル・リー)監督の『処刑剣 - 14 BLADES』(公式)を観る。監督が李仁港というところからして期待できないし、予告篇もあまりパッとしなかった。しかし、怒濤の甄子丹(ドニー・イェン)主演映画公開の一環なのでイキオイで観たが、ひとことで言ってゲームのような映画だった(ゲームはしないからよく知らないけれど)。

明の秘密警察・錦衣衛という歴史上の舞台設定で、甄子丹は陰謀に巻き込まれて逃亡を余儀なくされる指揮官・青龍の役。生き残るために兄を殺した過去、弟分のような副官・玄武(戚玉武/チー・ユーウー)の裏切りといった要素を絡めた翳のあるヒーローは、甄子丹に合ってはいる。しかし、別に錦衣衛でなくてもよかったんだろうという深みのないストーリーに、「尊厳を守る」というわかりやすすぎるメッセージが、いかにも「これがメッセージですよ」というふうに繰り返される。

設定や物語はとりあえずそれなりにあればよく、メインはド派手なアクションということだろう。しかしそのアクションも、せっかく甄子丹を出しているのだから、彼の肉体を前面に出したものが観たい。彼の生々しいアクションそのものを楽しみたい。画像処理などを駆使して派手にするのなら、別に甄子丹はいらないんじゃないかと思ってしまう。甄子丹のもちぐされ。また、邦題と英題に使われている剣・大明十四刀はといえば、「そういえば出てきましたね」という程度のうすい存在感。

この映画のもうひとつの目玉らしいのは、盗賊の天鷹幇を演じる飛輪海の吳尊(ウー・ズン)。初めて見たけれど、ふつうにかっこいい。しかし明の人には見えない。渋谷にいそうだ。徐子珊(ケイト・ツイ)演じる敵役の脱脱も、天鷹幇の取り巻きも、明の人には見えない。派手ないでたちに派手なアクション、リアリティはゼロ。そんなところもゲームっぽい。あるいはマンガ。たぶんリアルを求める観客は想定していないのだろう。

甄子丹と、護送屋の娘・喬花を演じる趙薇(ヴィッキー・チャオ)とのロマンスも肩すかし。若い女性を人質に取るというと『逃亡(策馬入林)』[C1984-44]が思い出される。フェミニズム的観点からは文句が出そうだが、基本的にかなり気に入っているので、ついああいう展開を期待してしまう。ところが、まず趙薇が、最初からウェルカムモードなのが解せない。さらに、甄子丹が立ちションしたら趙薇が「わたしもしたい」と言ったり、入浴シーンがあったり(もちろん別々)、宿屋の主人に「いい部屋ありまっせ」と言われて、ひと呼吸置いてから「二部屋にしてくれ」と言ったりしてさんざん気をもたせるくせに、その後のエロティックな展開はなし。刺青を見せたり入浴したり、甄子丹のセミヌードサービスショットがいくつかあるが、せっかくハダカを見せるならもっと色っぽいシーンで見せてくれ、と言いたい。

また、吳尊が甄子丹に協力するところ、甄子丹と戚玉武が対面するところは、萌えポイント期待シーンなのに、熱いまなざしも何もなし。青龍と玄武の対面シーンはもっとしっかりみせるべきだし、そのために玄武はもっと大物俳優を使ったほうがいい。と思ったら、戚玉武って『881 歌え!パパイヤ』[C2007-31]に主演していた人だったのか(感想に「ちょいといい男」と書いているわたし)。それならばなおさら、もうちょっと見せ場を作ってほしかった。