実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『悪の華(La Fleur du mal)』(Cluade Chabrol)[C2003-34]

シアター・イメージフォーラムの「クロード・シャブロル未公開傑作選」(公式)で『悪の華』を観る。「お父様を殺してしまった」っていう、フランス版『Wの悲劇』。違うか。

舞台は、フランスの地方都市のブルジョワの屋敷。この家に住むのは、ヴァスール家出身のジェラール(ベルナール・ル・コック)とシャルパン家出身のアンヌ(ナタリー・バイ)の再婚夫婦、それぞれの連れ子のフランソワ(ブノワ・マジメル)とミシェル(メラニー・ドゥーテ)、アンヌの未婚の叔母リーヌ(シュザンヌ・フロン)。ほとんどファーストネームで呼ばれている彼らの関係は、最初はわかりにくい。やがて市長選に立候補しているアンヌを中傷する文書などによって、この二つの家の四代に渡る血塗られた歴史が明かされていく。近親相姦、不倫、殺人、戦争中の対独協力…。さしずめおフランス横溝正史といった趣。横溝正史の世界が日本の土着的な雰囲気を色濃くもつのと同様、こちらはきわめておフランス的。したがって、構図は似ているのに受ける印象は大きく異なる。

故人も含め、良い子から見たら犯罪者や不道徳な人ばかりの家族だが、悪者とみなされているのは、リーヌ叔母さんの父親とジェラールだけのようだ。対独協力者とエロオヤジは許されないらしい。罪を犯す女性たちは、犠牲者あるいはかわいそうな人というより、むしろ天晴れという感じである。「ちっとも後悔していない」ときっぱり言い放つリーヌ叔母さんの爽やかな表情が心に残る。

あいかわらず展開の予想できないおもしろさ。主役扱いのアンヌは物語に直接絡まず、脇役にしか見えなかったリーヌ叔母さんが次第に存在感を増し、いつのまにか主役に躍り出るのがなんとも鮮やか。美人とはいえないが、ミシェルを演じるメラニー・ドゥーテも、キュートだがときおり大人っぽさやエロさをのぞかせてなかなかよかった。

映画のはじまりは、無人の屋敷をカメラが舐めるように動き回り、やがてひとつの死体の前で立ち止まる印象的なシーン。これからはじまるのは、何人もの血で染まったこの屋敷に、新たな死体を付け加える物語だと告げているかのようだ。古い屋敷はただならぬ気配を漂わせ、ダミアの“Un Souvenir”が印象的に流れる。やがて訪れるはずの騒ぎの前に、当選したアンヌを祝福するパーティで明るく終わらせてしまうラストもいい。

戦争中の対独協力がちょっとだけ出てくる。フランス映画における対独協力者の表象、中国(中華圏)映画における漢奸の表象は、個別には研究されていると思うが、両者を比較してみるとおもしろいのではないかと思った。