実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『昼間から呑む(낮술)』(노영석)[C2009-42]

シネマート新宿で、ノ・ヨンソク監督の『昼間から呑む』(公式)を観る。今回の帰宅の目的のふたつめ。昼間から呑める、いや観られるのは今週いっぱいのようなので、急いで観にきた。あまり呑めないけれど休日の昼ごはんはだいたい呑んでいるわたしにとっては、なかなかそそられるタイトル。「昼間から」というと「昼間にもかかわらず」というニュアンスがあるが、この場合は開始の意味の「から」なのか、「昼間に呑んでいる」というよりも、昼間から呑みはじめてずっと呑んでいるという感じだった。

失恋した青年、ヒョクチン(ソン・サムドン)が、友人と旅行に行くはずがひとりで旅するハメになり、酒と女(男)が絡んだ、悪夢のようなトラブルに次々見舞われるロードムービー。冒頭で髪の毛ハネまくっているヒョクチンを見て、「こりゃ、ふられるよな」と思ったが、ふつうっぽくて憎めない風貌にだんだん親近感がわき、応援したくなる。容貌も、優柔不断で小心者の性格も、いかにもふつうなのに、出会う人やさせられる体験があまりにもふつうじゃないという、その対比がおもしろい。

次々にいろんな人に会ってトラブルに遭うのではなく、同じ人に何度も会った挙げ句ひどい目に遭わされたり、同じ人とトラブルを重ねたりするのがおもしろかった。トラブルをもたらす主な相手は三人で、きれいなエロいおねえさん(キム・ガンヒ)、きれいじゃない怖いおばさん(イ・ラニ)、そして親切そうで実はゲイ疑惑のおじさん(シン・ウンソブ)。結局のところ、どんな相手も油断ならない。おじさんとのエピソードがいちばんおもしろかったけれど、怖いおばさんの顔がいちばん強烈だった。

『ラブ・ゴーゴー』[C1997-05]の第二話を思い出させるようなエンディングがまた秀逸。そのあとの展開を予想すると、学習しないのがヒョクチンの美徳なので、彼はまた江陵(カンヌン)へ行き、あの清純そうな女の子も実は美人局か何かで、またひどい目に遭うと思う。

旅のはじまりである旌善(チョンソン)のバスターミナルは、『春の日は過ぎゆく[C2001-03]のロケ地であるらしく、たぶん実際のものだと思うが、写真と説明が貼ってあり、ベンチに座った女性たちがみな、李英愛(イ・ヨンエ)を気取って写真を撮ってもらうのが笑えた。自称ロケ地研究家としては、ロケ地やロケ地めぐりが茶化されているっぽいのは多少気になるが、わたしは登場人物になったつもりで写真を撮ってもらったりはあまりしないからいいことにする。江原道へ行けば両方の映画のロケ地めぐりができそうなので、そのうちに行ってみたい。でもその前に辛拉麺をもって材木座海岸へ行こう。