実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『素晴らしい一日(멋진 하루)』(李胤基)[C2008-43]

シネマート新宿で、イ・ユンギ(李胤基)監督の『素晴らしい一日』(公式)を観る。原作は、平安寿子の『素晴らしい一日』とのことだが、作家も小説も知らないので原作との比較はなし。

ヒス(全度妍/チョン・ドヨン)という女性が別れた男ビョンウン(河正宇/ハ・ジョンウ)のところに昔の借金の取り立てに行き、ビョンウンがその返済のために借金をして回る。そんな一日を描いた、韓国版『集金旅行』。ヒスにお金が必要な具体的な理由が示されないのと、ふたりがなにごともなく別れるのがいい。だんだん暮れてきて、ふたりが別れると夜になっていて、急に「ああ、今日も一日終わったなあ」と感じた。それと同時に、ただ映画を観ていると思っていたのに、実はこのふたりとずっといっしょに過ごしていたんだなあと気づいた。このときの、幸福感と切なさが入り混じったような感じがたまらなく好きだ。

ヒスを演じるチョン・ドヨンは、『シークレット・サンシャイン[C2007-27]のイメージとはぜんぜん違って別人みたい。いつもぷんすかしていて恐いところがとてもよかった。特に、最初に女社長に借金しに行って、口のうまいビョンウンとうれしそうな社長を、すごくバカにしたような目で見ているところが気に入った。

ビョンウンは、神保町シアターの特集「華麗なるダメ男たち」に強力推薦したい、甲斐性のない男。口がうまくていかにも軽薄そうだが、実は褒めたり心配したりしているのは口先だけではなく、そのため女性たちから好かれている。このような人物造型はなかなか興味深い。ビョンウンを演じるハ・ジョンウはたぶん初めて見るが、田中邦衛に見えるというJ先生の指摘は、わからないでもないけれど観ているあいだは気づかなかった。