実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『夜の片鱗』(中村登)[C1964-38]

神保町シアターの特集「華麗なるダメ男たち」(公式)で、中村登監督の『夜の片鱗』を観る。ニュープリント。

彼岸花[C1958-04]田中絹代に「いいのめっけてよ」と言われた桑野みゆきが、めっけた平幹二朗に売春させられる話。平幹二朗といえば、初期の東映仁侠映画でボスクラスの悪役を好演していたのが印象に残っている。これもだいたい同じころの映画なので、モノにしたとたんに豹変して非情で冷徹なヒモになる、というのを期待していたのに、金に困ってしかたなく売春させ、助けたくても助けられないヘコヘコした下っ端ヤクザでがっかりした。

たしかにこれは「悪い男」の特集ではなく「ダメ男」の特集であり、前半の彼は間違いなくダメ男なのだが、後半、オトコでなくなってしまったために自発的に炊事や洗濯や買い物をする平幹二朗(の演じる役)は、けっこう悪くない。理由や下心があろうとも家事をする男はポイントが高いので、桑野みゆきが離れられないのも頷ける。

一方、ヒロインの桑野みゆきはすばらしい。桑野みゆきといえばファニーフェイスで、かわいいかもしれないが美人ではない(桑野通子の娘なのに)。それがこの映画では、堕ちるほどきれいになっていき、特に最後の数分間は神々しいまでに美しい。ひとりで歩き回る彼女にただただ圧倒された。

さらに、桑野みゆきの声にも注目。小津映画では、ぶりっこっぽいというか、劇団の子役みたいなよくとおる声だが、この映画ではそれとは全く違う、ドスの利いた、けだるく低い声。特にモノローグがすごかった。