実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『海炭市叙景』(熊切和嘉)[C2010-44]

今年の初映画は、ユーロスペースで熊切和嘉監督の『海炭市叙景』。去年公開された観たい映画のなかで、唯一去年観られなかったもの。ベストテンを作ったりする関係上、その年の公開映画はその年のうちに観るのが信条だが、実家にハリツケ状態のため観られなかった。

読んでいないが、佐藤泰志の同名の連作短篇小説の映画化。18の短篇のなかから5つの短篇が選ばれている。原作はもっと昔の話だと思うが、映画の舞台は2009年12月から2010年1月の海炭市。海炭市というのは架空の街で、モデル&ロケ地は函館市。時間と場所を同じくする複数の物語で、登場人物や事件が少しずつリンクしているという、いわゆる『恋する惑星』方式。しかし内容がラブストーリーなどではないためか、「またかよ」感はあまりなく、新鮮に感じられる。5話が交錯する複雑さもあって、異なる物語の主人公が画面をよぎる瞬間は、感動的ですらある。

ブルー、グレー、茶色といったダークな色合いのくすんだ風景がいい。それらは「海炭市」という名前にふさわしいいっぽう、函館の既成のイメージとは遠く隔たっている。出てくるのはみな、どんづまりのような状況でもがいている人たち。その淡々とした自然なたたずまいもいい。最近の日本映画は、演技過剰だったり、台詞が意味ありげすぎたり、観ていて落ち着かないものが多かったので、久しぶりに安心して観られる日本映画を観た気がする。

全体としてけっこういいのだけれど、だからといってすごく気に入ったわけでもないのだが、もしこれが同じような内容で同じようなスタイルの、中国東北部を舞台にした中国映画だったとしたら、おそらくもっと気に入っていただろうと思う。「そういうのって変かな?」と自問してみる。いや、変じゃないと思う。