東京フィルメックス8本めは、同じく有楽町朝日ホールでアッバス・キアロスタミ監督の『トスカーナの贋作』(FILMeX紹介ページ/公式)。特別招待作品。
ギャラリーを経営するフランス人女性(ジュリエット・ビノシュ)とイギリス人作家、ジェームズ・ミラー(ウィリアム・シメル)が、カフェの女主人に夫婦と決めつけられたのをきっかけにそれらしい会話をしているうち、いつのまにか本物の夫婦にしか見えなくなる、というお話。本物と偽物、事実とフィクションの境界の曖昧さ、あるいは境界を自在に行き来する感じはいかにもキアロスタミらしく、アイデアはおもしろい。
舞台は南トスカーナで、ロードムービーといえなくもないが、路地などがちらっと映ったり、地元の人と絡むシーンがあったりはするものの、トスカーナを満喫するような映画ではない。ほとんどはふたりのいずれかがしゃべっているショット。わたしはジュリエット・ビノシュがきらいだし、ウィリアム・シメルも、見目麗しいわけではないし、特に味があるわけでもない。したがって、見た目にうれしい映画ではない。
しかもジュリエット・ビノシュがきらいなので、彼女が見せるイヤな面にほんとうに嫌悪感を感じてしまう。行く先々でするあつかましいおばはん的ふるまいにも閉口する。
さらに、内容のほとんどを占めるふたりの会話があまりおもしろくない。なぜおもしろくないかというと、話の内容が詳細かつ具体的なところまで入っていかないのと、お互いにガミガミ言いあっていて遊びがないから。
思うに、本物の夫婦の場合、罵りあってばかりいたらしんどいから、どこかでおちゃらける。岡田茉莉子だって、最後「よしちゃえ、よしちゃえ」で〆るでしょ。それに、途中で言わなければならないトピックを思い出して、関係ない話をしたりする。たとえば、「そういえば由比ヶ浜大通りに新しいケーキ屋さんができてたよ」(事実です)とか、「冷蔵庫ね、やっぱり一時払いの方が得らしいわよ、割引もあるし…」とか。
結局のところこのふたりが本物の夫婦に見えてしまうのは、いかにもそれらしい会話をしているからで、つまりそれっぽく見えるだけで本物の夫婦の会話ではないのである。それが狙いといわれればすごく納得するけれど、観ていて楽しくない。やっぱり岡田茉莉子は偉大だ、というのが今日の結論。