実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ソフィアの夜明け(Източни Пиеси)』(Kamen Kalev)[C2009-36]

10時半くらいに昼ごはんを食べて、シアター・イメージフォーラムでカメン・カレフ監督の『ソフィアの夜明け』(公式)を観る。去年の東京国際映画祭のグランプリ作品。わたしが観たコンペ作品はろくでもないものばかりだったが、ちゃんとした作品も選ばれていて、ちゃんと賞を取っていることがわかって安心した。タイトルが『イースタン・プレイ』と出て英語字幕がついていたので、たぶん映画祭時のフィルムだろう。

舞台はブルガリアの首都ソフィア。主人公は38歳のイツォ(フリスト・フリストフ)。美術学校を出て、木工技師の仕事をしながら創作を続けているが、いまだ芽は出ない。麻薬中毒の治療中で、その苦しさからアルコールに依存している。若い弟のゲオルギ(オヴァネス・ドゥロシャン)は、ネオナチに走りかけている。父親やその後妻とも理解し合えず、若いガールフレンドともうまくいっていない。街には再開発やグローバリズムの波が押し寄せているのと同時に、ネオナチが外国人排斥を叫んでいるが、彼らは右翼政治家に金で雇われている。そんな出口のない状況のなかで、イツォは外国人排斥に遭っても理想を曲げないトルコ人女性ウシュル(サーデット・ウシュル・アクソイ)と出会う。

社会主義の崩壊から20年。この国がいまだ安定した状態にあるとはいえないことをうかがわせるのと同時に、このイツォを取り巻いている状況の、なんと日本に似ていることか。インテリで良識あるウシュルの両親が、ネオナチに暴力をふるわれたとたん、ブルガリア人全体をいっしょくたにして憎んでしまうのも、そのへんで中国人がどうのと言っている日本人になんと似ていることか。

そんな切実な空気感とともに、イツォがさまよう夜明けのソフィアの街が印象的だった。何度か出てくる、イツォがバスに乗っているシーンもいい。主演のフリスト・フリストフは若くもイケメンでもないが、すごくいい顔をしていて、この顔が「おっさんの青春映画」を成立させていると思う。亡くなってしまったそうでたいへん残念だ。

弟を悪の道から救い出して関係を修復したり、路上で出会ったおじいさんの家でくつろいだり、医者に心情を吐露したりすることによって力を得て、イツォは最後に一歩前に進み、ウシュルに希望をつなぐことを選ぶ。青春三十八、遅くはない。か?