実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『超強台風(超強颱風)』(馮小寧)[C2008-40]

朝から出京して歌舞伎町のシネマスクエアとうきゅうへ。一ヵ月ぶりの映画は馮小寧(フォン・シャオニン)監督の『超強台風』(公式)。溫州市に台風がやって来そうなところから上陸して去るまでを、市長(巫剛/ウー・ガン)を中心に描いた映画。というか、市長のスーパーぶりを描いた映画。

大マジメにやっているのか笑うところなのかいまいち判別がつかないが、市長のスーパーぶりとその見せかたがふつうではないので、真面目なだけとは思われない。最初の登場シーンからおメメのキラキラぶりが尋常ではない。さらに、控えめに見せてもすごいのに、スローモーションやら何やらを駆使してこれでもかと魅せる。楽しすぎる。

一部の出演者の演技が大仰だったり、緊迫した音楽と感動的な音楽が交互に始終流れていたり、映画としてはかなり古くさい印象だし、プロパガンダ臭も臭う。しかし、けっこうよくできていると感じるのは、あれもこれも盛り込まず、描く対象を思い切って絞っているからだと思う。まず、市長をはじめ主要な登場人物の大半が、台風上陸地点の避難所に集結することによって、台風の様子や避難をめぐるドラマがここで効率よく描かれる。ミニチュアを使った台風の映像は、ミニチュアってすぐにわかるけれど、かなりの迫力で目が釘づけ。台風の怖さを実感させられる。

そのほかに描かれるのはふたつだけ。ひとつはダムの放流によって建設中の経済特区を犠牲にするかどうかという、非常にスケールというか金額の大きい話。もうひとつは、たったひとりの妊婦(とういか生まれる子供を入れると二人)を救助する話。こういうときに妊婦が産気づいたりするのはお約束の紋切り型で、最初は正直「またかよ」と思ったが、この映画の場合、ちょっといい人情話で終わったりせず、思いっきり見せ場が用意されている。台風の目を利用したヘリコプターでの救出に、装甲車での運搬。惜しいのは、ヘリコプターのシーンで石原裕次郎の『紅の翼』が、装甲車のシーンで小林旭の『赤いトラクター』が使われていないこと。そのままでも、ちょっとだけ変えて中国語カヴァーしてもいいが、とにかくこの二曲をワンコーラスずつ流したら、異様に盛り上がること間違いなし。

たぶん人民解放軍の全面協力で作られているので、解放軍兵士はみな立派だが、あくまでも無名の人(たぶん)なのも好感度大。邦画などでありがちだと思われるのは、主要な登場人物のひとりを解放軍のパイロットにしておいて(もちろん有名イケメン俳優が演じる)、彼が妊婦の救出役に選ばれる。彼にはちょうど身重の妻がいて、飛行中にクサい回想シーンが流れたり、妻の写真がでてきたりするという展開。最悪である。

いちばんいいところは、若手イケメン俳優が、妻や恋人に向かって「君を守りたい」とかほざいたあげく、特攻隊的自己犠牲の末に死んだりしないこと。この映画では、少なくとも画面に映っている範囲では誰も死なないのがすばらしい。組織図上で市長より偉い人は出てこず、国家が描かれないのもこの映画のいいところ。

ところで、これは一昨年の東京国際映画祭のコンペに出品された映画。去年のコンペに出た中国映画は、『永遠の天』[C2009-11]と『台北に舞う雪』[C2009-13](合作だが、監督が霍建起なので)。世界でも一流の映画作家を多数輩出している中国なのに、いくらその多くが政府に気に入られていないとはいえ、いくら東京国際映画祭のコンペのレベルが低いとはいえ、出すほうも出すほうなら選ぶほうも選ぶほうというひどいラインナップである。去年はかなりアタマにきたが、それに比べたらこの『超強台風』はあまり腹も立たない。あまりに場違いすぎて、むしろ天晴れな感じがする。