「ヤスミン・アフマド監督作品特集」4本めは『グブラ』。3年前にここで観て以来の二度め(前回の感想:id:xiaogang:20070804#p2)。やっと『細い目』[C2004-32]と続けて観ることができて満足。
今回まとめて観て思ったのは、『細い目』、『グブラ』、『ムクシン』[C2006-18]で三部作と呼ぶべきだということ。オーキッド三部作というより、オーキッド&ジェイソン三部作。『細い目』で引き裂かれて終わるふたりを後日ふたたび結びつけるのが『グブラ』で、前もって宿命づけるのが『ムクシン』であるといえる。しかしそう考えると、ジェイソン役をもうちょっといいオトコにしておけばよかったのに、とあらためて思う。ヤスミン・アフマドの映画は、シャリファ・アマニあるいはその妹たちの輝きに多くを負っている。それにひきかえ、ジェイソン役のン・チューシオンはやはりあまりに…。『細い目』だけで終わりならまだいいけど、ここまで引きずるとなるともう少し輝きがほしい。『グブラ』と『ムクシン』はワンシーンの出演だけに、余計に印象に残る人であってほしい。
あとは、今回観て感じたこと、書きとめておきたいことを断片的に。
- 最も印象に残るのは、やはりオーキッドがジェイソンの部屋で遺品と対面するシーン。『細い目』での彼女の泣きはうざかったけれど、こちらでは切なく胸を打つものになっている。女優としての成長のあと、と言っていいだろうか。
- ジェイソンよりアランのほうがいいと思う。
- お手伝いのヤムさんと看護師との恋物語が好き。
- ヤスミン・アフマドの作品のなかで最も重いというだけでなく、人間の悪い面、醜い面まで突っ込んで描いており、いつもの「人間賛歌」的なものとは印象を異にする。
- 祈りへの願いがこめられていると同時に、宗教の無力さをも感じさせる。
- 前回の感想に、「マレー人のためのイスラム教の国であることを第一義とするマレーシアが抱える矛盾と、そのツケを個人が払わされる理不尽さを、かなりはっきりと描いた映画」と書いたが、ちょっとメッセージが前面に出すぎていて青い感じがする。
- オーキッドのおとうさんは『小早川家の秋』[C1961-04]の中村雁治郎を思わせるが、これはやはり意図的なものと思われる。会場で売っていた『タレンタイム』のパンフレットに、小津のお墓参りをするヤスミン監督の写真が載っていたので。
- オーキッドがテレビで『ラブン』[C2003-31]を観ているシーンがある。
- オーキッドとアランが車の中で歌うのは、許冠傑(サミュエル・ホイ)の“無情夜冷風”。エンディングの張子夫(ピート・テオ)の歌は“Who for You?”。