実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を(復仇)』(杜蒞峰)[C2009-27]

昼ごはんのあとは川崎へ。約一ヵ月ぶりの映画は、今年はじめてのロードショーで、杜蒞峰(ジョニー・トー)監督の『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』(公式)。交通費の節約と時短のため川崎を選択。「川崎なんて別にお洒落して行かなくていいや」というイメージだが、みんなふつうにお洒落して歩いている。前売りを用意するヒマがなく(前売りを買うのも同様にたいへんだ)、「勘弁して」というタイトルなので、緊張してTOHOシネマズ川崎のチケット売り場へ行ったが、「冷たい雨に撃て」で問題なく通じた。

映画はフランスとの合作で、杜蒞峰の欧米進出とか言われていたので不安だったが、ふつうにおもしろかった。海外進出とかそういうのではなく、杜蒞峰の香港映画にジョニー・アリディが出ているだけ、という感じ。合作の場合、フランスからジョニー・アリディが出てくれば、ふつう香港からもそれに見合うような二枚目系大スターを出してくるものだが、そこにあえて黄秋生(アンソニー・ウォン)、林雪(ラム・シュ)、林家棟(ラム・ガートン)という個性的な三人組をぶつけてくるところに自信のほど(何の?)が伺える。 この地味さがいいですね。

英語映画だというのも不安要素だったが、単にフランス人と香港人がコミュニケーションできる言語が英語だったというだけで、フランス語が話されるべきときはフランス語、広東語が話されるべきときはちゃんと広東語だったので安心した。こういうのは英語映画とは呼ばない。

内容的には、男の友情とか仁義とかいったものが、わりとコンパクトに描かれていたと思う。これまでの作品をそんなにじっくり観ているわけではないので違うかもしれないが、杜蒞峰映画は展開が速いわりに、男の友情とかいった部分はいくぶんウェットでくどいイメージがある。しかし今回は、ジョニー・アリディと三人組が信頼を深めていく様子が、事件の現場検証や銃の取り扱いを通じて、さらっとかつ説得力をもって描かれていてよかった。

ジョニー・アリディがとにかく渋い。若いころの顔を憶えていないが、かつてのアイドルという感じはしない渋さ。中華圏ではこういう主役をはれる中高年層がうすいから、このような合作は大いにアリだと思う。フレンチ・ノワール風味の次は日活風味か東映風味で、アキラか菅原文太でどうですか。もちろん健さんもいるけれど、健さんはちょっと使い古されているからね。

ところで林雪。一流のプロの殺し屋なら、銃を持ったまま一般のホテルの廊下に出ないでしょう。ジョニー・アリディと三人組が、互いに殺し屋の匂いを嗅ぎとっているのならば、別に拳銃まで見せることはなかったのでは。

おもしろかったけれど、例によって熱狂や心酔はしない。杜蒞峰の映画ではロケや撮影の魅力が語られることが多いけれど、なぜかどちらもわたしの琴線にはふれない。それが心を揺さぶられない理由かもしれない。ロケ地についていえば、東洋人と西洋人が出会う物語に、東洋と西洋が出会う地、澳門(マカオ)を選んだのはいいが、それならもう少し東洋と西洋が出会う感じが現れている場所を使ってほしかったと思う。

欧米進出という感じはあまりしないと書いたけれど、ちょっと気になったのは、なんとなく西洋人の期待に沿うような、オリエンタリズムっぽい雰囲気が感じられたところ。澳門のカジノのきらびやかなネオンとか、いきなり街中で銃撃戦がはじまるワイルドなイメージとか。任達華(サイモン・ヤム)が乗り出してきて三人組が殺される派手な戦闘シーンは、『レッドクリフ』を連想させた(具体的なシーンとしてではなく、全体的なイメージとして)。

ジョニー・アリディに対抗し得るスターとしては任達華が出ているが、またもヘンタイ的なボス役。いつものように楽しげに演じているが、たまには『SPL/狼よ静かに死ね(殺破狼)』[C2005-32]みたいなかっこいい任達華が見たいよう。