実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『三重スパイ(Triple Agent)』(Eric Rohmer)[C2003-33]

今日もマークシティのジャン・フランソワで昼ごはんを食べて、ユーロスペース(公式)の「アデュー・ロメール」。わたしのロメール通いも今日が最後。5回券の枚数を再見したい映画で埋めていき、残った1枚は未見の『三重スパイ』を観ることにした。遺作を観るべきだと思いつつ、どうしても観る気になれないので(昔の話だし)、機会の少なそうなこちらを選んだが、これがなかなかおもしろかった。

1936年から1937年にかけてのパリを舞台に、スパイである亡命ロシア人の夫とギリシャ人の妻の日常を、夫の仕事内容をほとんど知らない妻の視点から描いたもの。ロメールの映画には、ヴァカンスものなど日付入りで語られる作品がいくつかあるが、これは日付こそないものの○年×月というキャプションと共に進んでいき、目まぐるしく変わる当時のヨーロッパ情勢が、記録フィルムで挿入されている。

夫フョードル(セルジュ・レンコ)の身に起こることが、独ソ不可侵条約などその後のヨーロッパ情勢を予見しているように思われる点、フョードルのしていることや彼を取り巻くできごとが、当時のヨーロッパの縮図のように思われる点が非常に興味深かった。また、夫婦や友人のあいだの駆け引きや嘘といった、実はいつものロメール映画と同じようなものが描かれているのに、主人公がスパイであるために非常にスケールが大きくなっているのがおもしろい。

ほとんど窓が映らないアパルトマンやホテルの部屋の濃密な空気が印象的で、妻アルシノエ(カテリーナ・ディダスカル)の、ひいては当時のパリの閉塞感を表しているように思われる。アルシノエの異様に官能的な雰囲気や、常にソフトなものごしながら、言っていることが本当か嘘か全然わからないフョードルのまやかしっぽい雰囲気などに、時代の空気が濃厚に映し出されているように思われる点も興味深い。

ほとんど知らない出演者のなかで、ポーリーヌ=マルゴことアマンダ・ラングレが、上階に住む共産党員の教師役で出演。かわいいけれど、すでにおばさんになりかけである。