実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『きみに微笑む雨(好雨時節)』(許秦豪)[C2009-25]

新宿へ移動し、シネマスクエアとうきゅうで許秦豪(ホ・ジノ)監督の『きみに微笑む雨』を観る。もともと『愛してる、成都(成都、我愛你)』[C2009-14]の一部として企画されたもの。

成都四川大地震、韓国人の男、中国人の女。杜甫をからめたりしている点に工夫がみられるにものの、この材料から最も簡単に思いつきそうなストーリー。許秦豪作品の大きな魅力は、一見ストーリーに直接関係なさそうな、さりげない日常のディテールがていねいに描かれ、それが物語に深みを与えている点だと思う。それがこの映画にはないように思われる。

これまでの許秦豪の映画は、いずれも一組の男女が登場する、ある程度長い期間を扱った物語で、彼らがお互いには知らないことを観客に対しては見せながら、彼らの感情の機微を描いていたと思う。今回も一組の男女が登場するのは同じだが、ほんの数日間の物語で、女(メイ)の秘密を男(ドンハ)も観客も知らないで進行する。これはもしかしたら、もともと短篇として企画されていたことと関連するのかもしれないが、これまでのような進め方のほうがよかったように思う。

アメリカ留学時の友人という設定なので、会話が英語なのも難点だ。以前も今も英語で会話する間柄なので、接し方そのものが英語モードになっていて、いろんなことをあけすけにしゃべってしまう。設定に対してはリアルなのだろうが、東洋人どうしのつきあいとしてはやはり違和感を感じてしまう。

また、出てくるところがきれいすぎる。許秦豪の映画はどれも画がきれいだが、出てくる場所自体がきれいなわけではなく、生活感がにじみでるような風情がある。それがこの映画にはないので、観ても格別成都に行きたくならない。土地勘のないところで短期間で撮っているので、提示される観光名所的なところで撮るしかなかったとは思うのだが。成都大熊猫繁育研究基地(ですよね?)のパンダが出てくる点はよい(かわいすぎる)。

そもそも、こういう企画は受けるべきではなかっただろう。よくは知らないが、四川大地震の被害者を励ますとか収益で被害者を助けるとかいった趣旨の企画だと思うので、手伝っていただけませんかと言われたら、許秦豪としても「わたくしにできますことでしたら(田中絹代の声で)」と答えてしまったのかもしれない。しかしこういうものは、当事者が時間をかけて経験を熟成させたり、部外者の場合なら綿密なリサーチをしたりしたうえでなければ、なかなかリアリティのあるものは作れないのではないだろうか。

主演は鄭雨盛(チョン・ウソン)と高圓圓(カオ・ユアンユアン)。かねてから鄭雨盛の弱点はほっぺただと思っていたが、この映画はヤバすぎる。ステロイド治療でもしているかと思われるほどのまんまるい顔に、それを強調するようなヘンな髪型。スーツでバッグやカメラを肩にかけたりして、独身エリートサラリーマンというより、おっさん韓国人観光客である。

『スパイシー・ラブ・スープ(愛情麻辣燙)』[C1998-14]で超かわいかった高圓圓ももう30歳。袁詠儀(アニタ・ユン)みたいにショート・ヘアの似合う、さわやかな女優になっていた。彼女自身はナチュラルさが魅力だと思うけれど、演技はいまひとつナチュラルではないように思われた。英語を話しているせいも少しあるかもしれないけれど。

今回は企画モノだったからしかたがないということで、許秦豪の次回作に期待したい。

王ろじでとんかつセットを食べて帰る。フィルメックスの受賞結果は帰りのバスの中で知った。コンペ作品は4本しか観なかったが、予想どおりの結果でびっくり。