実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『お父さん、元気?(爸...你好嗎?)』(張作驥)[C2009-22]

昼ごはんは、ジョムマカンでビーフンのランチを食べて食後にゴレン・ピサンを食べようとはりきって行ったら、平日ランチにはビーフンはなく、平日のランチタイムにはデザートメニューもなく、意気消沈する。代わりにロティ・チャナイとカレーを食べる。ロティ・チャナイはおいしかったが、あまりにお上品で(つまり少なくて)がっかりする。

今日の2本めは、やはりコンペティションで張作驥(チャン・ツォーチ)監督の『お父さん、元気?』(公式(台湾)←完成版とは短篇の構成やタイトルが違っているのでなんとかしてほしい。電視版が別にあるわけじゃないですよね)。張作驥はすごく好きな監督なので、テレビドラマの“聖稜的星光”も前作の“蝴蝶”もDVDをもっているが、いつか日本語字幕・スクリーンで観られる日を夢見てまだ観ていない。したがって、『きらめきの季節/美麗時光(美麗時光)』[C2001-13]以来、8年ぶりということになる。この『お父さん、元気?』もすでにDVDを注文したので、多少気楽な気持ちで臨むことができる。

映画は、父親を描いた10篇の短篇によるオムニバス。今日が父親節(8月8日)であることが明確に示されているのは“心願”と“背影”だけだったと思うが、すべて父親節の話なのかもしれない。

あいかわらず画はとてもよく、特に田舎町や眷村がすばらしい。しかしストーリーは、ちょっとドラマチック過ぎたり、泣かせるっぽかったりするものが多く、もう少し淡々としていてほしい。短い時間で背景などをわからせるためだとはいえ、説明的な台詞が多いのも気になる。音楽も、張作驥の映画にしてはつきすぎのように思われた。

総合的にみて、“阿爸的手錶”、“背影”、“往日的舊夢”、“鐵門”あたりが好き。以下、各短篇のポイントなど。

  1. “阿爸的手錶”
    舞台は美濃(高雄縣美濃鎮)で、東門樓も登場。このまえ行っておけばよかったと後悔する。冒頭から、奥行きのある家の中が半分くらい見えている縦の構図とか、張作驥っぽくて魅せられる。おそらく、現在ではなく1960年代くらいの話ではないかと思われ、町や医院のちょっとノスタルジックな雰囲気もいい。
  2. “心願”
    父親は高捷(ジャック・カオ)。例によってヤクザだが、いつのまにか腹が出ている。自殺未遂で重度の障害を負った娘が紀培慧(テレサ・チー)。台北101がちょこっと見える。
  3. “原點”
    主な舞台は、桃園國際機場の第一ターミナルの搭乗口。空港はどこも似たような感じだが、ここは細長くて特徴的なうえに、突き当たりに玫瑰唱片が見えるので間違えようがない。新東陽の鳳梨酥が出てくるので、今度行ったら買おうと思ったが、新東陽はスポンサーだったので、それでは思うつぼではないかとちょっとひく。でもやっぱり買おう。おそらく特定の場所のことを言っているのだと思うが、「四川なんて電気も水もない」という台詞がしつこく出てきて気になる。
  4. “期待”
    父親役の米七偶という人は、『TATTOO 刺青(刺青)』[C2007-02]に出てきた日本人らしい(別人に見えたが)。ここでも日本人の設定で、日本語と北京語の一人通訳状態で話す。子供役はふたたび紀培慧。龍山寺(たぶん)と捷運科技大樓站前のアパートが出てくる。
  5. “爸爸不要哭”
    父親役に『きらめきの季節/美麗時光』の高盟傑。気づかなかった。若い父親という設定らしいが、若くも見えない。彼が家へ帰るシーンの、ちょっと曲がった通りがいい感じだった。
  6. “背影”
    父親役の陳慕義(チェン・ムーイー)は、『熱帯魚』[C1995-63]で誘拐犯をやっていた人だと思う。息子役に張捷(チャン・チエ)。この家の最寄駅は平溪線の十分。駅に向かうとき、侯硐あたりを走っているように見えたが、はっきりとはわからない。張捷が通っているのは、國立瑞芳高級工業職業學校と思われる。
  7. “往日的舊夢”
    息子役に范植偉(ファン・チーウェイ)。眷村と思われる場所がいい感じ。お父さんがタンゴの練習で流していた曲は、白光の“魂縈舊夢”。
  8. “我怎麼捨得分離”
    宜蘭あたりの海岸が舞台。龜山島がどーんと見える。離婚した夫婦の話。
  9. “鐵門”
    一人暮らしの父親の家に一族が集まっての団欒。お父さんは痩せているのに、娘も嫁もみな太っている。皆が帰りきらないうちにシャッターを閉めてしまうお父さん。シャッターはおそらく、いつものひとりのモードに戻るための道具なのだろう。
  10. “兒子,你還記得什麼嗎”
    父親役の太保は『悲情城市』で阿嘉をやっていた人。舞台は台北市立動物園。冒頭に「パンダを見に」という台詞があるのに、パンダは出てこない。自由に歩き回る動物たちは、『きらめきの季節/美麗時光』の一角獣を思わせる。