実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ペルシャ猫を誰も知らない(Kasi Az Gorbehayeh Irani Khabar Nadareh)』(Bahman Ghobadi)[C2009-21]

朝から出京。今日の1本めは、コンペティションバフマン・ゴバディ監督の『ペルシャ猫を誰も知らない』。バフマン・ゴバディの映画は、『酔っぱらった馬の時間(Zamani Baraye Masti Asbha)』[C2000-38]と『わが故郷の歌(Gomshodei dar Araq)』[C2002-40]しか観ておらず、気がつけばかなり久しぶり。

上映前にバフマン・ゴバディのメッセージが読み上げられたが、この映画を撮ったためにイランにはいられなくなったとのこと。今回来日できなかったのは、ヴィザが取れなかったためということだが、それって日本政府がアホだということだよね(去年もネグリが来日できないという事件があった気がするが)。

舞台は現在のテヘラン。若いミュージシャンのカップル、アシュカン(Ashkan Koohzad)とネガル(Negar Shaghaghi)が、イランを出てロンドンへ行って演奏をしようと奔走するさまを描いたもの。出国予定日まであまり時間がない中で、バンドのメンバー探しと、偽造パスポートとヴィザの入手、出国前に開くコンサートの許可取得と会場確保、ロンドンで演奏するための曲作りまでやらなくてはならない。

アシュカンとネガルが主に行うのはメンバー探し。現在のイランでは、ポップ・ミュージックは全く禁止されているわけではないが、コンサートなどには許可が必要で、練習場所の確保も難しいようだ。そんななかで、苦労しながら音楽活動を続けているバンドをひとつずつ訪ねる。そして、登場したバンドが曲を披露するのだが、アシュカンとネガルも、ほかのバンドも、実名で登場している実際のミュージシャンであり、テヘランのミュージック・シーン紹介映画という様相を呈している。

紹介される音楽は特別好みではないが、演奏している映像に、テヘランの街角の映像が挿入されているのが興味深い。ジャンルも音楽活動に対する姿勢もさまざまで、イランを離れては自分たちの音楽ができないと語る人たちや、常識から外れたことや政治的なことは音楽に取り入れないと語っている人たちが印象的だった。

偽造パスポートの入手やコンサートの許可の取得を引き受けるのはナデル(Hamed Behdad)というブローカーみたいな男で、彼だけがプロの俳優だということだ。このナデルが逮捕されて緊張が走るが、容疑はアシュカンたちとは無関係の海賊版DVD販売で、あらゆる言い訳、言い逃れをしまくるのがいかにもイラン人っぽくて楽しかった。

彼らの運命は、実は映画の最初に提示されているのだけれど、監督のメッセージに、アシュカンとネガルが実際に映画の撮影直後に外国に行ったとあり、ドキュメンタリータッチだったこともあって最後はうまくいくのかと思って観ていたら、予想外の結末だった。

ちょっと気になったのは、音楽活動をしている彼らはどういう身分なのかということ。働いている人も少しは出てくるが、一日中練習をしている人たちはどうやって生活しているのか。ネガルは車をもっているみたいだし、アシュカンの家(たぶん)はカウンター・キッチンのある立派そうな家。彼の母親はドイツにいて、父親の遺産で偽造パスポートを買おうとする。それなりに余裕のある人が音楽をやっているようにもみえたのだが、どうだろうか。

映画からは、音楽に限らずあらゆる面で規制が厳しく、何かというとすぐに警察がやってくるという印象を受けた。数年前、アボルファズル・ジャリリ監督が、「大統領が替わっても映画製作に影響はない」と言っていたけれど、やはりかなり影響があるように思われる。