実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『花形選手』(清水宏)[C1937-14]

続いて2本めは『花形選手』。佐野周二笠智衆は陸上部のライバルでラブラブの仲。いっしょに行軍演習に出かけるが、宿泊先で佐野周二と門附の女・坪内美子がいちゃいちゃしていたため、嫉妬に狂った笠智衆佐野周二を殴る。佐野周二はそれで目が覚め、ふたりはふたたびラブラブに、というお話……ではない、もちろん。

これを観るのは7年ぶり2回めで、前回も思ったけれどやはりわたしはこの映画が苦手である。まず第一に、この映画のクライマックス、佐野周二が坪内美子といっしょにいるところを見つかって隊長の大山健二に怒られ、笠智衆に殴られる、というシーンがイヤだ。佐野周二が黙って言われるがままになっているのは坪内美子をかばってのことだと思うが、笠智衆はいったいなぜ、しかも何の権利があって殴るのか。笠智衆:「俺がどうして殴ったか、わかってくれるね」。わかりません(司葉子の声で)。佐野周二:「ありがとう」。なんで? このシーンがどうにも後味が悪く、それを解消するには上述のように解釈するほかはない。

第二に、行軍演習で学生たちが歩くシーンがえんえんと続くにもかかわらず、どうもおもしろくないし、幸福感もない。それはなぜか。おそらく軍がらみだからだと思う。何か言われたのか自主規制なのか知らないが、あんまりおちゃらけてはいけないという感じで、ユーモアも中途半端でさえない。さらに、行軍は隊長を先頭に行われていて、その隊長が上述のように大山健二なのだ。前項にも書いたように、大山健二は寝るか食べるか以外しちゃいけないはずなのに、ずっとまじめくさった顔をしている隊長なのだ。おもしろいはずがない。

それに、若き笠智衆がキモチわるい(ごめんなさい)。日守新一近衛敏明もさえないし、最後の陸上部姿はキモチわるい。また、「勝てばいい」というような、スポーツマンシップに則れば否定されるべきテーマも、戦争とからめてあるため、最後まで肯定される。

『團栗と椎の實』がいつまでも終わらないでほしいと思われたのと対照的に、この『花形選手』は64分しかないにもかかわらずものすごく長く感じられ、早く終わってほしいと思う映画だった。