バンガロールに来ちゃったの

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『セルアウト!(Sell Out!)』(楊俊漢/Yeo Joon-han)[C2008-32]

昼ごはんを食べてから出京。今日の1本めは、コンペティションのマレーシア映画『セルアウト!』。監督は楊俊漢(ヨ・ジョンハン)。ペナンに楊公司(Yeo Kongsi)という祠堂があって、日本語のガイドブックには「イエオ・コンシ」と書いてあったりするが、この‘YEO’(たぶん福建語)というのは「ヨ」と読むんだということがわかった。つまりミッシェル・ヨー(楊紫瓊)の「ヨー」ですね。

上映前に監督の舞台挨拶があった。「平日の昼間から来てくださってありがとうございます。みなさんが失業中ではないといいのですが」。すみません。失業中です。

『セルアウト!』はマレーシア社会を風刺したブラック・コメディ。メディアや家電など様々な分野を手がけるFONYという多国籍企業で働く男女ふたりが主人公。ひとりはテレビの司会者である華人女性、ラフレシア(Jerrica Lai)。もうひとりは家庭用大豆製品作成マシンを開発しているイギリス人と華人のハーフ、エリック(Peter Davis)。他の出演者もほとんど華人で、マレー人やインド系はほとんど出てこない。舞台が多国籍企業ということで、言語はほとんど英語だが、イギリス英語とマレー英語は区別されていて、その違いは重要な役割を担っている。広東語も少し出てくる。

バリバリのマレー英語を話して、イギリス英語を訛りと決めつけるCEOとか、社是までが他社(台湾企業)のパクリだとか、おつりに破れたお札を渡しておいて「それは破れているから使えない」と言い切る店員とか、笑えるところ、「あるあるー」というところはたくさんある。一口に「マレーシア社会を風刺している」といっても、民族を問わずマレーシア人やマレーシア社会を風刺しているところ、マレーシア華人を風刺しているところ、マレーシアに限らず華人・中国人に当てはまりそうなところなどさまざま。どれがどれと正確に分類することはできないが、なんでも祈祷に頼るところ、人気投票が大好きなところ、クリスチャンでもないのに英語名をつけてクリスチャン・ネームと呼ぶところなどは、華人・中国人全般に当てはまるのでは。マスコミに影響されやすく、テレビで紹介された途端に品切れになるところなど、日本人にも当てはまるところもたくさんある。

全体としては、視聴率のために良心も捨ててウケる番組を作ろうとするラフレシアと、オリジナルで高品質の商品を作ろうとしているのに、儲かる商品を作れと言われて葛藤するエリックを描いている。自分の作りたいものと要請されるものとのギャップとそれに基づく葛藤は、マレーシアに限らない永遠のテーマであり、要請されるものが、「売れるもの、儲かるもの」というお金のにおいのするものに限りなく近づいているのが、世界的に共通する最近の傾向であるといえるだろう。

楊俊漢監督は、この映画を作るにあたって大企業から出資してもらったということで、その際の、自分の作りたいものと商業的な要請とのあいだの葛藤をネタに、この映画の内容を考えたということである。基本的にはそれはストーリーに反映されているが、それだけではなく、監督が自分自身をパロディにしてるようなところもある。映画の冒頭で、ラフレシアのアート紹介番組のゲストとしてヨ・ジョンハンというアート系の監督が登場し、映画は現実を反映しなければならないと主張してミュージカルをけなしたりするが、この映画は途中で突然ミュージカル風になったりもする。アート紹介番組の中ではこの監督の短篇の一部が紹介されるが、そのシーンと『セルアウト!』のラストシーンが呼応しているのがおもしろい。

芸術映画と商業映画のあいだの葛藤は、映画のスタイルにも反映されているということで、アートっぽいスタイルから商業映画っぽいスタイルへ移っていくとのこと。そのへんはあまり意識して観ていなかったが、最後のほうで失速していくように感じられたのは、もしかしてそのあたりも影響していたのかもしれない。

FONYという名前は、有名企業のパクリの名前をつけてしまうマレーシア企業を表しているということだった(それってPENSONIC(公式)?)。ソニーがモデルではないということだけれど、そういえばかつて、ソニー製品は保証期間が切れると同時に壊れるというウワサがあった。

上映後の楊俊漢監督のQ&Aは、録画してYouTubeに載せるとかで下の階のスクエアで行われた。そこで聞いた内容のいくつかは上の文章の中に書いたが、詳細はフィルメックスのデイリーニュース(LINK)を参照のこと。