実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『水の彼方(雙生水莽)』(田原)[B1365]

チケぴに並んでいるあいだに、『水の彼方』読了。『胡蝶(蝴蝶)』[C2004-11]、『八月的故事』[C2006-13]、『青春期』[C2006-04]、『私たちの十年(我們的十年)』[C2006-S]などに出ている女優、田原(ティエン・ユエン)が書いた小説。

水の彼方 ~Double Mono~

水の彼方 ~Double Mono~

武漢に住む女子高生の日常を、様々な記憶の断片や夢の記録を織り交ぜて描いたもの。繊細で想像力豊かなヒロイン、陳言(Chen2 Yan2)は、多分に田原(Tian2 Yuan2)の自伝的な要素を含んでいると思われる。出版されてから読むまでにしばらく間があったのは、紹介文に「幻想的」と書いてあるのに躊躇していたためだが、基本的に幻想的な部分は夢の話だったので、特に問題なく読めた。原題にもなっているこの小説のモチーフ、水莽草、および武漢における長江のイメージを知っていると、より深く味わえると思うが、知らないのが残念だ。

描かれているのは、進学校に通う高校生の日常。塾や予備校がない代わりに、早朝から夜まで学校がある。だんだん豊かになる時代に育ち、親の期待を一身に受けているものの、もはや国家だの政治だのは背負っておらず、大学へ行くことに積極的な意義は見出していない。ただ、大学へ入れば、家や学校や、この窮屈な世界から自由になれる。今は息をひそめて、それを待つしかない。そのような彼女たちの心境は、そのままわたし自身の高校時代と重なる。年齢的な世代は異なるが、日本においてはわたしくらいの年代の人がいちばんこの小説に共感できるのかもしれない。ただしわたしが最も共感したのは、陳言がバスの中で眠ってしまって、窓に頭をぶつけたりするところだったかも(美少女もそういうことをするんだと思うとうれしくなる)。

非常にヴィジュアルな小説なので映画化したくなるし、具体的な場所にはそれほど言及されていないものの、武漢に行きたくなる。また、周波数とかポテンシャルエネルギーとか、理系っぽい単語が目につくのが印象的。陳言は理系から文系に転向したという設定だが、田原自身もそうなのだろうか。