今日は、この連休中に観たい映画3本を一日に詰めこむ計画を立て、ひそかにほくそ笑んでいたら上映予定が変わっていて、一本めに観るはずの映画が観られなかった。だからシネコンって嫌いだ。
昼過ぎまで時間が空いたので、新宿御苑をぶらついたり、昼ごはんを食べたりしたあと、新宿武蔵野館で小林政広監督の『白夜』を観る。『バッシング』[C2005-21]から観はじめた小林政広監督の映画は、『幸福 Shiawase』[C2006-47]、『愛の予感』[C2007-19]がよかったので、邦画で唯一、新作を必ず観る監督になっている。
まだ3本しか観ていないし、その3本でも作風はけっこう違うのだが、小林政広監督の映画には次のような特徴がある。
- 決まった行動の繰り返しとそこに現れる差異
- 台詞が少なく、登場人物の背景などはあまり説明されない
- 北海道の殺風景な風景
『白夜』は、そのようなこれまでの小林監督の映画の特徴をあまり備えていない。それは、登場人物が眞木大輔と吉瀬美智子が演じる男女ふたりだけであること、舞台がフランスのリヨンであり、半日だけのドラマであることから、ある程度必然的に導き出されるだろう。北海道ではないが、遠いところで出会う男女という点では『幸福』や『愛の予感』と共通する。しかし行動はほとんどなくて会話が中心、当然台詞も多い。わたしはその違いに馴染むことができなくて、ずっと違和感を感じながら映画を観ていた。
映画はイスラエルのパレスチナ攻撃に反対するデモで始まり、主演のふたりを手持ちカメラと長回しでとらえる。スタイルはドキュメンタリーっぽいのに、内容は芝居っぽい。わたしが違和感を感じたのは、その芝居っぽさだ。
ふたりは自分の身の上を饒舌に話す。そのこと自体にまず違和感を感じる。外国で出会った見知らぬ日本人ということで、つい話してしまうということはあるかもしれない。映画の設定上、台詞で説明するしかないということもあるだろう。しかし、いかにも映画か小説のような台詞の内容と、実際には誰も使っていなさそうな言葉づかいに、リアリティを感じることができなかった。
さらに、ふたりが演じるキャラクターにも魅力を感じることができない。映画や小説ではありふれていて、しかし現実にはそんなにいるのかどうかわからない役柄。それに、明日日本へ帰る予定なのに、日本人に声をかけたり日本食を食べに行ったりする眞木大輔が理解できない。役者に魅力があれば、そんなことは気にならないかもしれないが、ふたりに魅力を感じなかったのも大きいと思う。いちおう断っておくと、どうやらけっこう知られた人らしいが、眞木大輔も吉瀬美智子もわたしは全然知らないはじめて見る人である。
この映画は、上にも書いたようにリヨンロケである。最近東アジアではフランスで撮るのが流行っているらしく、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、洪尚秀(ホン・サンス)、蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)が立て続けにパリで撮って、小林政広はリヨン。さすがに北海道ほど殺風景ではないが、ほとんど赤い橋とそのまわりしか出てこなくて、これは悪くなかったと思う。リヨンにも行ってみたくなった。