今週も遅めに出京して阿佐ヶ谷へ。タコライスを食べてから、ラピュタ阿佐ヶ谷の「武満徹の映画音楽」特集で、篠田正浩監督の『乾いた花』を観る。
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- 発売日: 2009/06/26
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義理や人情とはほとんど無縁であり、かといって仁義なき戦いを繰り広げるようなギラギラしたところもない、いっぷう変わったヤクザ映画である点はユニークである。濃厚な夜の気配も印象的だ。しかし、退屈して人生に飽きたような池部良と加賀まりこの設定や台詞がやけにカンネン的で、アタマでつくった映画という感じが鼻につく。ヒロインは、賭場に現れては大金をスッたり、興味本位でヤクを打ってみたりする謎の女だが、わたしが加賀まりこにぜんぜん魅力を感じないのが致命的。
好きなのは、宮口精二と東野英治郎の登場シーン。競馬場の観客席に、黒いサングラスのいかにも怪しげな男がふたり、並んで双眼鏡を覗いている。キャメラが近づくと、これが宮口精二と東野英治郎。宮口精二は池部良のボス。東野英治郎はかつて敵対していた組のボス。池部良は両者の対立のなかで人を殺して刑務所に入っていたが、出てきてみたら手打ちをしていた、という設定。ふたりは腹を探りあっているという感じでもなく、なんだか仲のよいおともだち。競馬のあとは、レストランの個室でコース料理を食べる。
宮口精二はもうすぐ子供が生まれることもあり、抗争とか縄張りを広げるとかはもういいから、ほかの組とも仲良くして、適当にビジネスをして、楽しく平和に暮らしたい。しかし、そういう覇気のないところには敵がつけこんでくるのが常であり、現にいまも大阪のヤクザにシマを荒らされている。そこで池部良がふたたび殺しをやることになる。そこがこの映画でいちばん好きなシーン。店のBGMなのか、大音量でクラシックの歌曲が流れるなか、このボスのいる喫茶店に池部良が入っていく。ボスに近づいていくが、ボスの顔はわからない。刺されるときにはじめて見せるその顔は…、じゃーん、山茶花究である。アコギな大阪ヤクザにはぴったりな反面、妙に小物っぽい雰囲気。それが、この男を殺してふたたび塀の中に戻らざるを得ない池部良の行動に、やりきれない虚しさを与えている。