実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『0課の女 赤い手錠』(野田幸男)[C1974-27]

シネマヴェーラ渋谷(公式)の特集は、今日から「劇画≒映画」。あまり惹かれないテーマだが、いくつか観たい映画があったりする。今日は野田幸男監督の『0課の女 赤い手錠』。原作は知らない。ヒロインの杉本美樹はとりあえず置いといて、出演者に郷硏治丹波哲郎三原葉子と並べば観ないわけにはいかない。

いやー、すごかった。何がって、三原葉子が。ぱんぱんに膨れ上がった頬、それを強調する白いメイク、常にラーメンと丼を手放さない豪快な食いっぷり、二段腹を堂々と見せるセミヌードに(「脱ぐのか」と心のなかで叫んだ)、水面から巨乳が飛び出した死体まで(なぜそこに風呂がある?)。女優魂なのか、金に困っていたのかはよくわからない。最初は怖いもの見たさに近かったのが、あまりのすごさに最後には「いいもん見せてもらった」という気分になる。

変貌ぶりがすごいのは郷硏治も同様。60年代の渋さは消え、70年代風にギラギラしていて魅力なし。同年の『直撃地獄拳 大逆転』[C1974-26]のときはこの映画だけかっこ悪いのかと思っていたが、すでに終わっていたということか。一方のタンバはだいぶん年を取っているが、次期総裁候補の役があまりにもぴったりで、葉巻をくわえた姿やすばやい決断力が超クール。「おとうさんは総理の椅子を手に入れるためなら何だってする人よ(うろおぼえ)」という娘の台詞で、「あ、その役、タンバだな」とわかってしまうが、もちろん期待を裏切らない。

わたしはこう見えても暴力が苦手なのだが、この映画は、「とんでもない鬼畜のチンピラたちVSそれよりさらに鬼畜の政治家+その手下の警察」という構図なので、郷硏治といえどもぜんぜん同情する気になれない、後味の悪い暴力シーンの連続である。その両方を倒すクールな女刑事が杉本美樹の役どころ。痛くても気持ちよくても表情をぜんぜん変えないのはたしかにクールで、ちょっと「青豆さんか?」と思ったりする。しかしアタマが切れる感じではなく、顔もあまり好みじゃないので、三原葉子郷硏治のギラギラした存在感には対抗できない。真っ赤なコートにロングブーツといういでたちなのに、彼女が歌う主題歌はなぜか演歌で、クールさが台無しである。さらに、タンバもクール、杉本美樹もクールのクール対決になると、これはもうタンバに軍配が上がるに決まっている。最後にふたりが車ですれ違うが、タンバは政治生命を失ってもまた起き上がりそうに見える。

警察も悪者なので、中心となるのは室田日出男である。わかりやすい。三原葉子やチンピラが殺されるときに「デカが殺しを…」と絶句していたが、悪者のわりには認識が甘すぎる。警察なんて悪いことばかりしているに決まってるじゃないか。最近、厚生労働省かどこかの不正事件で、「政治がらみの案件はマークがついていて別に処理していた」という話があったが、警視庁にはさぞかしたくさんの政治マークの極秘案件があるに違いない。

この映画のラーメンは、店屋物と思われるふつうのラーメン。とてもまずそうだった(これほど食べ物がまずそうな映画もめずらしい)。

こんな映画は、隣に暑苦しい男が来るに決まっていると危惧して行ったが、予想以上にガラガラだった。シネマヴェーラって、シネフィルはそこそこ取り込んでいるのに、どうして老人を取り込めていないんだろうか。たしか神保町シアターにもチラシが置いてあるはずなのに不思議である。渋谷だから?