実録 亞細亞とキネマと旅鴉

サイトやFlickrの更新情報、映画や本の感想(ネタばれあり)、日記(Twitter/Instagramまとめ)などを書いています。

『張込み』(野村芳太郎)[C1958-33]

続いて「銀幕に吠えろ」二本めは、野村芳太郎監督の『張込み』。野村芳太郎にも松本清張にも興味はないが、これは大木実主演なのでずっと観たかった(次は『砂の器』が観たい)。

張込み [DVD]

張込み [DVD]

好きだけど貧乏な高千穂ひづるにしようか、別に好きではないけれど家つき職つきの川口のぶにしようか優柔不断に決めかねている大木実が、張込みで朝から晩まで高峰秀子を見続けているうちに情が移ってしまう、というお話。最初は、歳より老けていて地味だとか、男がわざわざ会いに来るような女には見えないとか、天下のデコちゃんに向かって失礼なことを言いまくっていたのに、地元警察に彼女を巻き込まないよう詰め寄ったり、ケチなダンナが帰る前に彼女を家に帰そうと必死に説得したりするさまはまさに異様。

デコちゃんは、たとえ元彼の田村高広が捕まっても、これを機会に婚家を出たかったかもしれない。なのに、大木実は彼女を牢獄のような婚家に無理やり押し戻す。そのくせ自分は好きな女のほうをとる。その選択、おかしいなあ。デコちゃんに肩入れししすぎて、東京に戻ったら二人ともから振られてしまう、というのがあるべき物語だと思う。

それはさておき、張り込みたい家の真ん前に旅館があるなんていう想定はほとんどあり得ないが、これが映画になると抜群の効果を上げている。あまり派手な動きのない映画だが、刑事の大木実宮口精二といっしょにデコちゃんのうちを覗き込んでいるだけでおもしろい。コントラストの強いモノクロ画面が美しく、暑苦しい感じがよく出ているのがなによりいい。ラストの温泉は、佐賀県ではなく大分県宝泉寺温泉で撮影されたとのことで、出てきた旅館はもうないらしいが、ぜひ一度行かなければならない。

地味なのか豪華なのかよくわからないキャストだが、わたしは思いがけのう内田良平が見られてうれしかった。J先生は、藤原釜足近衛敏明(わたしは見逃した)にトキめいていたらしい。

かなり久しぶりにとんきでひれかつを食べて帰る。