実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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台湾旅行第五日:新竹→菁桐→平溪→望古→台北

今日は特別忙しいので5時半起床。朝から台北に戻り、台北車站で荷物を預けてそのまま平溪線に乗りに行く予定。台北での乗り換え時間が15分しかないことと、半日で平溪線の必須ポイントをまわれるかどうかが気がかりだ。朝食を早めに済ませて出発。「花生醬が重い」と不平をたれまくるJ先生がうるさい。

まだ見ていなかった建築を見たりしながら、護城河親水公園を通って新竹車站へ。新竹市美術館暨開拓館(公式)(↓左写真)は、1925年竣工の新竹市役所(市定古蹟)。“新光人壽”の看板を掲げた建物は、これも1925年竣工の新竹州圖書館(市定古蹟)。ひとまず見納めの新竹火車站(↓右写真)は、松ヶ崎萬長設計、1913年竣工の新竹驛(國定古蹟)。


8:52の自強1002次で台北へ。定刻の10:05ごろ、到着と同時にダッシュして地下の改札を出ると、すぐ前にコインロッカーがあった。ちゃんと50元玉も確保してあったので、荷物の処理はあっという間に終了。トイレへ行く暇まであった。10:20の莒光42次は無座だったが、とりあえず空いている席のまわりをうろうろし、発車時刻近くなっても来ない席に座ったら、運よくそのまま瑞芳まで行けた。日曜日なので、列車は平溪線方面または九份方面へ行く若者たちで混んでいる。定刻の11:10ごろ瑞芳に到着し、乗り換えた11:24の平溪線はさすがに座れない。同じ列車で来た人があまり乗って来ないので、みんな九份に行くのかと思っていたら、しばらくしてたくさん乗り込んできた。どうやら瑞芳で平溪線一日週遊券を調達していたようだ。

定刻の12:05ごろ、終点の菁桐(台北縣平溪郷)に到着。平溪線に乗る観光客・行楽客の行き先は、十分→平溪→菁桐と延長拡大してきて、いまは十分が半分、平溪が三分の一、菁桐が六分の一といったところだろうか。菁桐はいちおう二度めだが、一度めは平溪線が折り返すあいだの10分程度いたに過ぎないから、ほとんどはじめてのようなもの。主な目的は、『午後3時の初恋』[C2007-35]のロケ地めぐりと太子賓館訪問である。

さっそく菁桐車站のホーム(↓左写真)で『午後3時の初恋』のロケ地をチェック(id:xiaogang:20090503#p2)。陳柏宇(張孝全/ジョセフ・チャン)が何度か乗り降りし、徐青青(郭碧婷/グォ・ビーティン)が最後に列車に乗るところだ。映画のなかではほとんど乗り降りする人がいないが、今日は人がうじゃうじゃいて雰囲気も何もない。菁桐車站は1922年竣工の旧・菁桐坑驛(↓右写真)。今日は人があふれていて、夏の午後の眠たげな空気が漂っていた2001年の駅舎が懐かしい。


次は、青青の家である老徐鐘錶店のロケ地へ(id:xiaogang:20090503#p3)。菁桐車站から平溪方面に少し戻ったところにある茴香というお店である(↓左写真)。菁桐車站からは思ったより距離があり、駅前の喧騒は聞こえない。ぽつんと建っている、観光地化された駅前とは一線を画したおしゃれっぽいお店だった。これで菁桐での『午後3時の初恋』ロケ地めぐりは終了。

平溪線より先に行くと、日式家屋地区がある。菁桐はかつて炭鉱があったところであり、炭鉱を管理していた台陽礦業の日本人幹部が日據時代に住んでいたところらしい。なかでも最も立派な礦場所長の住居(1938年竣工)は、改装されて皇宮茶坊(公式)という店になっており、ここで昼ごはん。日式家屋にちゃぶ台はなかなかいいが、縁側に畳の座布団では長時間座っていられない。ランチは、ごはんとつけ合わせの青菜などが小奇麗に盛られ、中華版カフェめしを目指していると思われる。しかし、スープがコーンクリームスープ、メインがヴァリエーション、味ともにいまひとつ、茶坊なのに茉莉緑茶なるいかがわしいティーバッグとくれば、「もう少しがんばりましょう」という感じ。しかも店内は撮影禁止。平溪線では意外に日本人を見なかったが、ここに来て最悪の形で日本人と遭遇した。隣の席に、日本人親子三人連れがやって来たのだ。「オレ、鰻でいいや」って言い放つ小学生の息子、あんたナニサマ?

皇宮の近くには、“貧窮貴公子(山田太郎ものがたり)”の太郎の家(↑右写真)もあった。長屋みたいに連なっている隣の家は北海道民宿という民宿だが、太郎の家は民宿ではなさそうな感じだ。

皇宮よりもっと立派なのが菁桐太子賓館(公式)(↓左写真)。無理をして今日菁桐までやって来たのは、ここが土日しかオープンしていないからだ。ここは1922年竣工の台陽礦業の石底俱樂部(台北縣縣定古蹟)。皇太子(昭和天皇)を招待するため顏氏が私費を投じて造ったため太子賓館と呼ばれているが、皇太子は来ず、その後会社の倶楽部となったようだ。

金瓜石太子賓館と違って中に入れるのは嬉しいが、実はレストランを兼ねている。100元で入館でき、入場券で50元分飲み食いできる仕組みだが、昼食直後でもあり、50元以下のメニューもないので利用しなかった。レストランを兼ねているということは、見学する部屋で飲み食いしている人がいるということであり、部屋の中をじっくり見たりウロウロ歩き回ったりできない。廊下に置かれた椅子などもカフェスペースになっていて、なぜかここでいちゃいちゃしているカップルが多い。維持していくための方策だと思うが、純粋に見たい人にとっては困りもの。


ここに来たのは、建物を見たいという理由のほかに、いくつかの映画のロケ地になっているのではないかと思ったからだ。結局よくわからなかったが、『海辺の一日』[C1983-44]の張艾嘉(シルビア・チャン)の実家はここではないかと思う。写真(↑右写真)のあたりが出てきていたような気がするが、今は確かめる術がないため、『海辺の一日』の一刻も早いDVD化を熱烈希望(もちろん『タイペイ・ストーリー』[C1985-52]も)。

皇宮茶坊の玄関にはしめ縄みたいなものがあったが、ここ太子賓館にはたくさんの絵馬が飾られていた。一般的な日本家屋の意匠と神社の区別がついていないような気がする。どうもこのあたりの建物は、ネーミングセンスといい、インテリアといい、間違った日本イメージに基づいているような気がしてならない。それはともかく、おかしいのは絵馬に書かれた文章である。ちゃんと日本語で書いているが、神社へ行って写したもののひらがながちゃんと書けていないもの(例:「青山学院大学に入学できろれつに」)、広告から流用したらしいもの(例:「フォーマルの鉄則は控えめなエレガンス」)、食堂のメニュー(例:「松 ちらし 上ちらし 特上ちらし まぐろ」)、さらには出典を推測できないもの(例:「甘口だからといってお子さま向けではない」)まで多種多様。おなががよじれるほど笑った。

炭鉱関連の建物(↓左写真)などがある駅のまわりをぶらぶらしてから平溪へ向かう。散歩の友は、菁桐車站前の老街で買った日本冰(↓右写真)。クリーム系のアイスキャンディーだが、なぜ日本冰なのか全く不明。ほかの店には花形のもあったので、そっちを買えばよかったと後悔。わたしは紅豆、J先生は花生を買ったが、クリームなのでフルーツ系のさわやかなもののほうがよかった。


平溪(↓左写真)に着く。老街は、狭い道を人の群れが埋め尽くし、芋圓屋にはすごい行列ができている。次の列車まであまり時間がなかったので、ほとんど観光はできなかったが、『憂鬱な楽園』[C1996-11]で賭博をしていたところをいちおう確認(↓右写真)*1

平溪で列車を待っているとあちらこちらから日本語が聞こえ、15:19の列車に乗ると目の前から関西弁が。十分の手前の、誰も降りない望古で降りる。はじめて降りる無人駅で、トイレに行きたいのに駅舎さえなくて呆然とする。よく見ると、ホームの前にバス停みたいな小屋があり、その横にトイレを発見。安堵しつつドアを開けて見たものは…。バタッ(閉める音)。ここでは断念するが、これから何もない山のほうへ行くので不安に思っていると、近くに莫内咖啡という広大な野外カフェがあったので、こっそりトイレを借りた。

こんな田舎に来た目的は、『午後3時の初恋』に出てくる滝である。平溪線の北側には望古瀑布というのがあるが、それではなく南側の山の中にあるらしい無名の滝。灰窯溪に沿って歩いていくと、最初は釣りをしている人を見かけたり、川遊びをしている声が聞こえたりしたが、しばらく行くと家もなければ人もいない。ただ緑がまぶしい世界(↓左写真)。


ひたすら歩き、莫内咖啡から25分くらいのところで滝を発見。しかしどうも様子が違うので、よく探したらそのすぐ奥にもうひとつ滝があった。こちらが『午後3時の初恋』で張孝全が飛び込もうとする滝(↑右写真)(id:xiaogang:20090503#p4)。こんなところまでわざわざ来たので、川に入ったりハーモニカを吹いたりしたいところだが、時間に追われているのですぐに引き返す。

莫内咖啡でまったりする暇もなかったが、なんとか17:17の上り列車までに望古に戻ってきた。しかし上り列車は遅れていたので、待っている人のほとんどいないホーム(↓左写真)をぶらぶらする。上述のバス停のような駅舎(↓右写真)のほか、駅前には一軒だけ、場違いに立派なカフェがある。結局列車は15分も遅れてやってきた。


十分にも行きたかったが、台北に戻る時間を考えて断念。『午後3時の初恋』で青青が蔡子涵の家を探すシーンでは、十分らしき町並みが映っていた。しかし、探し当てた家のまわりの雰囲気は、十分とは思われない。台湾版DVDを観ていたら、蔡子涵のおとうさんが「この眷村はもうすぐ取り壊される」と言っていた。このあたりに眷村はないだろうと思うので、できればそのあたりを確かめたかった。日本語字幕では無視されていたと思うが、眷村とわかると、画面には一度も登場しない蔡子涵について、その背景や親の思いなどがいろいろと想像される。

瑞芳に着くとダッシュで走って18:20の自強の切符を買い、少し遅れてきた列車に駆け込む。当然無座で通路まで満員、そのまま19時ごろ台北に到着した。コインロッカーから荷物を出して捷運で忠孝新生へ移動し、今日から泊まる八方美學商旅(公式)にチェックイン。

晩ごはんは、歩いて行ける龍門客棧餃子館(id:xiaogang:20090503#p5)。日式家屋を改装したお店(↓左写真)で、夜なのでよくわからなかったが眷村の中にあるらしい。「昔からずっと来ています」という感じのひとりごはんオヤジ、モデルみたいな女の子のグループ、日本人観光客と、客層がバラエティに富んでいるのがいい。もう少し何か食べたいと思いながらブラブラしていたら、鮮芋仙(公式)というチェーン店があった。トッピングの組み合わせがいくつか用意されており、地瓜+意仁+珍珠の芋圓2號(↓右写真)を食べる。甘味屋なので女性客が多いのかと思ったら、なぜかほとんど男性グループである。21時半ごろホテルに戻り、ラウンジでタダのマシン淹れ珈琲を飲む。今日の歩数は26988歩。山歩きをしたわりに少なかった。


まだ新しい八方美學商旅(Hotel Eight Zone)は、かなり変わったホテル。部屋の半分以上がガラス張りのバスルームで、シャワーとバスタブは別でジャグジーつき。バスルームにあるトイレは、個室ではないが、わざわざ覗かなければ個室的に使える。ホテルは寝るだけというタイプの旅では、バスルームを使う時間が多く、行く頻度も大きく、洗面所とトイレなどが同時に使えないと不便である。そういう意味で、ここはなかなかよく考えられていて使いやすい。これでシャワートイレと洗濯ロープがあれば完璧なのに、なぜかそれらはない。これからでも遅くないので、ぜひその点だけ改装してほしいものである。

*1:あとでこの写真を見て、前は閉まっていた1階が開いているのに気づいてショックを受けた。その場で気づいていたら、中を撮れたかもしれないのに。