実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ノン子36歳(家事手伝い)』[C2008-16]

昼ごはんのあと、出京して銀座へ。まずはたちばなにかりんとうを買いに行ったら長蛇の列で、順番がくる前に売り切れた。今まではいつもすぐに買えたのにヘンだな。このために銀座に来たのに、買えないのなら渋谷で観ればよかったと思いながら、銀座シネパトスへ『ノン子36歳(家事手伝い)』(公式)を観に行く。ここはできるだけ行きたくない映画館だが、久しぶりに行ってみたら、トイレもまあふつうだし、客席はわりとデラックスだし、そんなに嫌わなくてもいいかもしれない。

ヒロインのノン子を演じるのは、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』[C2007-25]で「遠山美枝子20歳」を演じていた坂井真紀38歳。無気力な出戻り元タレント家事手伝いを、リアルな存在感で好演している。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』に続き、彼女にとっては飛躍の年という感じ。無愛想でまわりに八つ当たりをしているようにも見えるが、変に媚びたり卑屈になったりせず、いつもゲタの音を響かせて闊歩しているのはけっこう好感がもてた。

描かれているのはノン子の今だけで、彼女の背景は断片的にちょっとずつふれられているだけだ。旅館もスナックも一軒しかないような田舎町、けっこう大きなお祭りが行われる地元では有名な神社、そこには跡継ぎ息子がいなくて女の子が二人、そのひとりがタレントになった、でもほとんど売れなくて、どうやらお色気がウリみたいなVシネマでちょこっと活躍しているらしい…。神社は妹のお婿さんが継ぐことになったが、そこに姉がタレントをやめて帰ってきた…。そういうのが近所でどのように見られて、家族のなかでノン子がどういう状況に置かれているのか。直接描かれていないことも含めていろいろ想像できて、彼女のいたたまれなさみたいなものがすごくリアルである。

36歳というのがまた実に絶妙な年齢設定。「もう36歳」(でも、もう…)だけど「まだ36歳」(でも、まだ…)でもあり、まだ若さや美しさで売れないこともなくて、やり直せるかもしれない、まだやれるかもしれないとも思えるギリギリの年。46歳だとこうはいかないよね。

元ダンナを演じる鶴見辰吾もいかがわしさ満開でなかなか楽しいが、相手役のマサル(星野源)はちょっといまいちだった。ヒロインの心を開かせる若い男の子としてはルックスがかわいくなさすぎだし、根拠のない自信や思い込みと、その裏返しとしてのキレやすさが危なっかしすぎる。同世代の人からみると、こういうのもリアルなんだろうか。

ロケ地は、埼玉県の寄居町秩父市だということで、秩父鉄道のローカルな電車も出てくるし、雰囲気は悪くない。しかしフィルムコミッションの全面協力で作られており、「ご当地映画」の匂いがするのがちょっと気になる。関東のローカル鉄道といえば、『珈琲時光[C2003-18]、『人のセックスを笑うな[C2007-20]がすぐに思い浮かんで、またかという感じもしないではないが、こういう鉄道は各地にたくさんあるのだろうか。