実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『赤穂城断絶』(深作欣二)[C1978-33]

「クリスマスといえば忠臣蔵でしょう」とJ先生が言うので、クリスマスケーキを食べながら『赤穂城断絶』を観る。また金子信雄変装映画観ちゃった、という感じである。前にも家で観ているから初見ではない。

赤穂城断絶 [DVD]

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オールスター・キャストの忠臣蔵映画がたくさん作られたのは、1950年代から1960年代だと思う。1978年になって作られたこの映画の新しさは、赤穂浪士の討入りを、単なる主君の仇討ちではなく、幕府に対する反逆と位置づけたところにある。幕府への反逆となれば、敵は吉良上野介金子信雄というよりも、幕府を牛耳っている柳沢吉保丹波哲郎大石内蔵助萬屋錦之介にとっても、わたしにとっても、相手に不足はありません。

浅野内匠頭西郷輝彦吉良上野介とのいきさつをばっさりカットして、いきなり松の廊下から始まるのをはじめ、「忠臣蔵といえばこのシーン」みたいなものをわざとはずしているのもよい。また、従来の忠臣蔵映画には、どこかおめでたいというかお祭り感がつきまとっているが、この映画は怪我がもとで脱落して心中する近藤正臣(橋本平左衛門)と原田美枝子(はつ)夫妻にかなり重きを置き、悲劇性を強調している点も新鮮だ。とはいえ、この二人の芝居は暑苦しくていけません。

錦之介は例によってひとりで重い芝居をしているが、浮いているとは感じなかった。錦之介の芝居から受ける印象は、錦之介ではなくて「大石内蔵助が芝居をしている」という感じである。内蔵助は事件が起こってから綿密なシナリオを書き、それにしたがって一世一代の大芝居を打ったのだろうと思わせる。最後の切腹のシーンの演説なんて、「だいぶん練習したでしょ」という感じだ。もちろんすべてがシナリオどおりにいくわけはないので、臨機応変に判断を下しながら、しっかり芝居は忘れない。さすがに大物であると思わせる。

忠臣蔵なので、その他のキャストも超豪華。50〜60年代からの映画スタアと、そろそろ同時代的にテレビでも見ているような人たちとが入り混じっている。いちばん目立つのは千葉真一(不破数右衛門)。アクションの見せ場たっぷりで、突然、千葉ちゃんのプロモーションビデオに変わるところが何度もあっておかしかった。遠藤太津朗(吉田忠左衛門)は今回はいい役で、J先生もおよろこび。コミカルでないいい役なんて珍しい。タンバとか松方弘樹(多門伝八郎)とか成田三樹夫(井上大和守)とか中原早苗(戸田局)とかは、出番が少なくて残念でした。三船敏郎(土屋主税)はいかにもゲストという感じのおいしい役。70年代後半の映画にしてはエロシーンがないが、原田美枝子の授乳シーンというサービスショットあり(見えそうで見えない)。

主君の仇討ちなどという時代錯誤な物語にちっとも共感できない現代人にとって、今日的な意義のある視点が導入されている(といってももう30年前だが)点で、今まで見た忠臣蔵映画の中でベストだと思う。ぜひ映画館で観たい。正統派の忠臣蔵としては、マキノ正博池田富保の『忠臣蔵 天の巻 地の巻』[C1938-10]がお薦め。忠臣蔵初心者には、渡辺邦男大映版『忠臣蔵』がとりあえず豪華キャストでわかりやすい。