実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽(Haruki Murakami and the Music of Words)』(Jay Rubin)[B1317]

『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽』読了。

ハルキ・ムラカミと言葉の音楽

ハルキ・ムラカミと言葉の音楽

ねじまき鳥クロニクル』などの英訳者であるジェイ・ルービンによる村上春樹論。ジェイ・ルービン訳の“The Wind-Up Bird Chronicle”[B288]は、かつて読んだことがある。シアトルへ自費出張(さいてー)に行く前に英語の勉強として読んだ。詳細は憶えていないけれど、違和感のない翻訳だったと思う。日本語で三巻のこの小説が英語版では一冊に収まっているが、このあたりのいきさつについてもこの本でふれられている。

村上春樹の作家デビュー前からこの本が書かれるまで、村上春樹がどこに住んで何をしていたといった伝記的事実を追いながら、その年に書かれた作品について論じている。エッセイやインタビューで語られた村上春樹自身の言葉も随時引用されている。アメリカの読者向けの作家・作品紹介といった趣きもあり、時々、(日本の読者にとっては自明な)日本や日本語についてのていねいな解説が挿入されているのがほほえましい。

書かれていることにすべて賛同するわけではないが、概してまっとうな、納得性の高い内容である。酷評されているという日本での批評はほとんど読んだことがないが、そこに明らかに書かれていることが故意に無視されている、という印象がある。この本では、書かれていることをちゃんと読んで、本人の発言も引用しながら、作家の意識がどのように変わっていき、それが作品にどのように反映されているかがていねいに描かれている。

村上春樹作品を語るキーワードとして著者が挙げているのは、「記憶」と「想像力」、そして「リズム」ということになるだろうか。わたしもこれには大いに賛同する。(特に初期の)村上作品の主人公について、「チャーリー・ブラウンみたい」と言っているのには賛同しかねる。わたしはどちらかといえばスヌーピーだと思う。あらゆることに自分なりのこだわりや自分の流儀があって、孤独を楽しみ、ある意味世の中を達観している。チャーリー・ブラウンはガラにもなくヒーローになることを夢見たり、すぐに人の足手まといになったりするので、大分違うと思う。

ともかく、この本を読むと村上作品をまた読みたくなる。特に、ずっと読んでいなくて、久しぶりに読みたいなと思ったのは『国境の南、太陽の西[B754]。あと、どうも興味がわかなくて読んでいなかった『アンダーグラウンド』と『約束された場所で』も、そのうち読まなければと思う。