実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『江戸川乱歩の陰獣』(加藤泰)[C1977-14]

朝からラピュタ阿佐ヶ谷へ。モーニングショーの「昭和の銀幕に輝くヒロイン」は香山美子。彼女には特に興味がないが、今日からのプログラムは、再見したいと思い続けていた加藤泰監督『江戸川乱歩の陰獣』。これは行かねばならない。映画館で観るのは17年ぶりの三度め。録画のDVD-Rがうちにあると思い込んでいて、去年『呉清源 極みの棋譜[C2006-42]が公開されるとき、「碁の映画といえばやっぱ『陰獣』だよね」と思って予習に観ようとしたら(予習にはならんって)、なくて愕然とした。一年かかって望みがかなうわけだが、なんとDVDも発売されるらしい。買うべきか当面買わなくてもいいか思案中。

江戸川乱歩の陰獣 [DVD]

江戸川乱歩の陰獣 [DVD]

タイトルから明らかなように、江戸川乱歩の『陰獣』の映画化である。加藤泰の映画のなかでは突出した作品ではないと思うが、時々観たくなるのでやはりそれなりの吸引力があるのだろう。多少つくりものっぽい感じも否めないが、戦前のレトロで陰鬱な空気がいいのだ。それはそのまま、乱歩の小説の空気感でもある。『君恋し』が使われているのもイメージにぴったり。

一方、この映画の何がいけないかといえば配役である。特に主役。あおい輝彦香山美子。子供のころから大嫌いだったあおい輝彦。体格がよすぎる。暑苦しすぎる。正しい推理にたどり着きながらも香山美子に溺れてしまうのだが、相反する感情に苦悩するといった感じはぜんぜんなく、理屈っぽくて騒々しい。原作はどうだったか忘れたが、SMにももう少し溺れてほしい。もっとマシな人材がいなかったのか?

香山美子は別に嫌いではないが、特に好きでもないので、彼女がヒロインといわれてもときめかない。しかし実際のところ、彼女はかなりよくやっている。ほくろもエロいし、乳首も気前よく出し、SMシーンも熱演している。でもこの役は若尾文子にやってほしい。だって、寒川(あおい輝彦)が真面目くさって論理に走っている横で、静子(香山美子)は勝手に官能に走ってくねくねしているのだから。これは若尾ちゃんしかないでしょう。

去年から観たかったシーン、すなわち碁を打つ音が次第に鞭の音に変わっていくところは、何度観ても異色の名シーン。そこにいる人が、大友柳太朗、仲谷昇野際陽子というのがまた怪しすぎる。『呉清源 極みの棋譜』と二本立てで上映したら粋だと思う。

久しぶりの加藤泰映画。前の席に座ったら、いっぱいあるローアングルのショットがより効果的で楽しかった。