奥多摩の御岳トンネルと払沢トンネルは、成瀬巳喜男監督の『女の中にいる他人』[C1966-03]のロケ地。小林桂樹が妻の新珠三千代に自分の犯した犯罪を打ち明ける、重要なシーンが撮影されたところである(このロケ地情報は、日本映画の名匠 成瀬巳喜男ファンページで知りました。ありがとうございます)。
これらのトンネルは1986年に拡幅改修されており、写真のトンネルは映画に出てくるものと同じではない。もとのトンネルは1955年竣工で、払沢トンネルが御岳第1隧道、御岳トンネルが御岳第2隧道と呼ばれていたようだ(廃線隧道のホームページ参照)。
『女の中にいる他人』のトンネルのシーンでは、新珠三千代の顔がとにかく怖い。トンネルに立つ若尾文子(くねくね)も怖いが、トンネルに立つ新珠三千代(こわばった顔)も怖い。現在のトンネルは、照明がまぶしいほどに明るいし、内壁もコンクリートの滑らかなものになって、暗さもごつごつしたおどろおどろしさもなくなっており、ミステリアスな雰囲気は半減している。外部の石垣の形状も少し変わっているし、歩道やガードレールもできている。しかし全体的な感じは当時からそれほど変わっておらず、同じ場所であることは容易にわかる。
『女の中にいる他人』のなかでは、このトンネルは温泉地にあるという想定であり、温泉のロケ地は会津の芦ノ牧温泉だということである。『成瀬巳喜男の設計』[B731]にもそのように明記されており、ここではトンネルのシーンも芦ノ牧温泉で撮ったように書いてある。芦ノ牧温泉も近いうちにぜひ訪れてみようと思う。