- 作者: フィツジェラルド,大貫三郎
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/06/25
- メディア: 文庫
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ハリウッドが舞台という、フィッツジェラルドとしては異色の小説。フィッツジェラルドといえばまずニューヘイヴンで、それからパリとかヨーロッパ。西海岸というだけでフィッツジェラルドという気がしない。しかし、おそらく彼のハリウッド体験が反映されているのだろうから、伝記などを読んでから読むともっと興味深いだろうと思う。
主人公のモンロー・スターはやり手の映画プロデューサーで、教育はあまりないのでニューヘイヴンとは縁がなく、フィッツジェラルドを投影したような人物ではない。それでも三十代ですでに余命いくばくもないという設定は、フィッツジェラルド自身がこの作品を執筆中に44歳の若さで亡くなったこと、しかもスターの病気が心臓病であり、フィッツジェラルドの死因が心臓麻痺であったことを考えると不気味である。
映画、監督、俳優などがけっこう実名で出てくるので(物語に登場するわけではないが)、当時のハリウッドに興味のある人にとっては格別だと思う。わたしはあまり詳しくないのでそれほど盛り上がらなかったが、ルビッチの名前が一度出てきたのはチェック。
この小説は未完で、書かれている部分についてはそんなに異色でもない。しかし残されていたノート(それもこの本に収録されている)を読むと、プロデューサーの権力闘争、暗殺計画、飛行機事故、結核など、韓国ドラマもびっくりの波乱万丈な内容。完成版が読めないのが残念だ。こんなノート書いているヒマに本文を書けばよかったのに、と思うのは素人の勝手な感想だろうか。
翻訳はこれもけっこうひどいと思う。完成されたものではないので原文自体に問題があるのか、翻訳が悪いのか、それともわたしの理解力に問題があるのか、いずれとも判断できないところが多々あった。判断できないけれど、たぶん翻訳が悪いんだと思っているわけですが。
ところで“This Side of Paradise”(楽園のこちら側)は翻訳されないのだろうか。