実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『珈琲時光』(侯孝賢)[C2003-18]

シシリアンを食べながら、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の『珈琲時光』を久しぶりに観る(DVD)。

珈琲時光 [DVD]

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大袈裟な台詞まわしは嫌いなので、会話がナチュラルな映画、わざとらしくない、リアルな会話の映画はよく観ていて珍しくない。しかしそれにしても、この映画の会話のナチュラルさ、というかぼそぼそ具合は尋常ではない(おかげでテレビだと台詞の聞き取りが非常に困難だ)。

それにこの映画の光。透明で見えないのに、映画のすみずみにまで光が行きわたっているという感じ。これはいったい何なんだろう。直接当たっている外の光、窓を通した光、直接は光が入らない屋内。その違いが単なる明るさの違いとしてではなく、光の違いとして出ている。

それと関連すると思うけれど、季節感が見事に出ているのにも感心する。この映画が撮影されたのは2003年の夏。この年の夏は冷夏で、梅雨明けも遅かったし、梅雨が明けても雨が多く、ずっと梅雨みたいな感じだった。この映画でも、晴れたり雨が降ったり、お天気のヴァリエーションが多い。そのそれぞれの感じがとてもよく出ていて、同じ晴れでも温度や湿度の違いがよくわかる。「こういう空気の日だな」というのが肌で感じられるのだ。季節を表すような風景や小物には頼らずに、見事に季節感を出していて、そんな映画が撮れる監督やキャメラマンは日本にも滅多にいないだろう。

これは今まで思っていたよりもっとすごい映画かもしれない。というわけで三つ星に格上げ。ちなみにこの映画は、浅野忠信によって鉄道オタクに市民権を与えるための映画だと思う。