実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『四月の雪 ディレクターズ・カット完全版』(許秦豪)[C2005-03]

日本に帰ってきてからひいた風邪が悪化してきたので、黄金周明け初日から有給休暇。せっかくお休みしたのだからシゴトでもしたいところだが、けっこうつらいので許秦豪(ホ・ジノ)監督の『四月の雪 ディレクターズ・カット完全版』を観る(DVD-R)。

まず感じたのは、「これは本当にディレクターズ・カットなのか?」ということ。公開版のほうがディレクターズ・カットであり、これは(ディレクターがカットしたのかもしれないけれども)市場の要請に応えて作った商用版・妥協版ではないかと思える。

ディレクターズ・カット完全版の特徴を大ざっぱにまとめると次のとおり。

  • ストーリーがわかりやすい
  • 内容がよりロマンティックになっている

はっきりいって、公開版の最もいいところをわざわざ取り出して悪くした、という感じである。

公開版は、省略できるぎりぎりのところまで切り詰めた、無駄なショットがひとつもない、しかもこれ以上はカットできないと思われるところが気に入っている。わかりにくいかもしれないが、必要なものはすべて入っている。だからディレクターズ・カット完全版で足されたシーンが、すべて無駄なものに見えてしまう。

内容的には、この映画は「好きになってはいけない人を好きになってしまったメロドラマ」みたいなのとはちょっと違う。敵側(不倫相手側)の人間だと思っていた人が、実は自分と同じ側にいるということに少しずつ気がつき、ふたりの距離が近づいていく、というのがまず中心にあって、それが丁寧に描かれているが、ふたりがくっつくのには、突然パートナーを失ってしまった心身の欠落を埋めるということや、不倫の腹いせみたいな感情も絡まっているだろう。そのなかで、肉体的なものの占める割合はかなり大きいと思われる。しかしディレクターズ・カット完全版では、一部のシーンが入れ替えられたり足されたりして、ふたりがくっつく過程がいくぶん純愛メロドラマっぽくなってしまっている。

画面から多くのことを読み取るのが苦手だという人、リアルじゃなくてもいいからロマンティックな気分に浸りたいという人にはお薦めするが、映画が観たいという人には公開版の『四月の雪』(asin:B000BN9ACU)のほうがずっとお薦めである。