- 作者: 岩崎育夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/11
- メディア: 単行本
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- アジアよりも日本が偉く、日本よりも欧米が偉い。
- 開発したり近代化したりすることはよいことである。
次のようなことが書かれているのを見ても、この著者が信用できないということはよくわかる。
シンガポールと香港が似ているということは、誰でもそれなりに感じることだろう。問題はそれをどう論証し、類似点と相違点をどう整理するかということだ。この本はその点で期待にこたえておらず、はっきりいってつまらなかった。電車の中で爆睡したわたしに、こんなハードカバーの本を投げつけられたり足下に落とされたりしたみなさん、ごめんなさい。
苦力、貿易商人、企業家、中間層と、時代の主人公を紹介しながら二つの都市の歴史を描いていく、というのは悪くない。しかし、詳しく論じられているのは経済的な側面のみ。社会、政治、文化等については、知っていることしか書いてないし、掘り下げが浅くて表面的だし、読んでいてもどかしい。ほとんど参考文献の受け売りにみえたが、あとがきを読むかぎり実際そうらしい。それでちょっと興味深い話題になったかと思うと、次のように書かれてしまうのだ。
- なぜ「香港文化」があって「シンガポール文化」がないのか、これも都市社会論の面白いテーマの一つだが、正直なところ、これは筆者の手にあまる難しい問題というしかない。(p. 258)
- ここでは、現代アジアにおける反植民地意識の例とそうでない例を並列するだけで、これ以上踏み込んでその社会的背景や意味を考えることは、筆者の能力では手に負えない作業である正直にいうしかないが、……(pp. 263-4)
この本に書かれている内容をふまえたうえであらためて考えてみると、まず戦前については、共通点をもついくつかの植民地都市のなかで、どのようにしてシンガポールと香港が抜きん出ていったかが重要であると思う。戦後については、シンガポールと香港がいずれも都市国家のようなものであるという点がポイントである。香港は国ではないが、少なくとも1997年までは準国家といっても差し支えないと思う。両者の類似点は都市国家(のようなもの)であるという点に基づいており、逆に両者の相違点は、シンガポールは国であり(しかも管理国家)、香港は実は国ではない、という点に基づいているといえるのではないだろうか。また現在から今後については、どちらも中国との結びつきがポイントであると思う。
この本が弱いと思うのは、シンガポール、香港とその他の都市との比較である。それがなければ、シンガポールと香港だけを取り上げていくら似ているといっても説得力がない。一応、マニラ、ジャカルタ、バンコク、デリーを取り上げて比較しているが、この比較対象はどう考えてもおかしいだろう。この選択肢の中では、誰が見てもシンガポールと香港が似ている。取り上げなければならないのは、シンガポールに対してはペナン、香港に対しては澳門(マカオ)、それに上海だと思う。また特に戦後に関しては、都市ではないが、比較対象として台湾が全然出てこないことにかなりの違和感を感じる。
また今後については、宗教や民族に基づかないアイデンティティのありかたが否定的に書かれているが、わたしは逆にそれこそがシンガポールと香港の売りであり、今後のモデルケースになる可能性を秘めたものだと思う。それから、今後のシンガポールにとっては中国との結びつきがキーになると思うが、それには全く触れられていない。