実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『花と龍(上)(下)』(火野葦平)[B1279-上][B1279-下]

『花と龍(上)(下)』読了。

『日本俠客伝 花と龍』[C1969-27]がおもしろかったので、ふと思い立って読んでみた。火野葦平についてはよく知らないし、読むのも初めて。文学としては特別どうということもないと思うが、物語はすごくおもしろくて、一気に読んだ。ストーリーに関係のない歴史的事件などにはあまり触れられていないが、明治から昭和初期にかけての時代の空気がよく出ているように思う。玉井金五郎・マン夫妻の歩みと、舞台となる若松の歩み、そして近代日本の歩みがリンクしているように感じられて興味深かった。最後は、暗い時代が来て組合運動が踏みにじられていくところまで描かれるのかと思ったら、二・二六事件と日華事変に触れて不安な雰囲気を醸し出すだけで終わっていた。

映画版の『日本俠客伝 花と龍』は、短くするために異なるエピソードをつなぎ合わせたりしているけれども、けっこう原作に忠実に作られていることがわかった。ただし、最後を殴り込み(正確には宴会に招待されて行くので殴り込みではないが)で終わらせるために、最後のほうは天津敏の役を含めて創作である。配役は、ベストとは思わないけれど、比較的原作のイメージに合っていると思う。映画を観たあとなので、自然に映画の配役をイメージしながら読んだが、藤純子が演っていたお京はなぜか林青霞(ブリジット・リン)だと思った(気がついたら林青霞をイメージして読んでいた)。

この本を読んだら『日本大俠客』[C1966-32]がものすごく観たくなったが、わたしが若松という地名を聞いたのは『日本大俠客』が初めてである。この映画では、藤純子によって若松の地名が意味ありげに発せられるので、ずっと「どこだろう?」と思っていた。今回、重い腰を上げて地図を見たら、なんと北九州市ではないか。戸畑もそう。そこで初めて、わたしは今まで、「北九州市」という地名は知っていてもそこがどんなところか知らず、全く興味ももってこなかったという事実に思い当たった。それというのも、「北九州市」という名前が、想像力を全く刺激しないどころか阻害しまくりだからだ。なんでまたこんな無粋な名前をつけたのだろうか。門司や小倉が北九州市だということも今初めて知った。

当時の面影が残っているとは思えないが、一度若松というところを見てみたい。ちょっと調べたところ、近代建築なども残っているようだし、ついでに門司も見られる。『花と龍』に出てくる武蔵温泉(今は二日市温泉というらしい)にも行けば、温泉にも入れる。東京から遠いので、ドライブがてら行くというわけにはいかないのが問題だ。