『戦前の少年犯罪』読了。
- 作者: 管賀江留郎
- 出版社/メーカー: 築地書館
- 発売日: 2007/10/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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内容はすごくおもしろかった。戦前(昭和限定)の少年犯罪を豊富に紹介しながら、煽りまくって、戦前がよかったかのようなことを言っている人たちを批判した本である。まず紹介されている少年犯罪だが、犯罪ばかり並んでいたら読んでいて気持ち悪くなるのではないかと思ったが、そんなことは全然なかった。もうすごすぎて、娯楽として楽しめる。
煽りまくりの文体は、好きじゃないと思う人もいるかもしれないが、ここは素直に楽しむべきだと思う。ことあるごとに、報道や、テレビで偉そうに語っている人たちを揶揄しているが、それがいちいちツボにはまる。たとえば次のような感じ。
- 今のように心の闇とか適当なことを云わないだけ誠実と申せましょうか。(p. 27)
- 昔は郵送によって毒殺する事件が結構起きていました。現在のネットや携帯のような最先端のシステムとして活用されていたのです。しかし、今の人たちのように郵便は犯罪を誘発するからいけないなんてことを云う人はおりませんでしたが。(p. 49)
- 今なら卒業文集を掲げられて心の闇やらを分析されるんでしょうか。この時代は日常茶飯事ですから、ローカルな小さい記事がひとつで終わりです。(p. 211)
- 旧制高校の復活を願う方は、学校のシステムやカリキュラムなどではなく、この周囲の大人の甘やかしをまず復活させねばなりません。……まあ、戦前の旧制高校生のように連日のごとく街中で暴れ回るのを暖かく迎え入れることもないでしょうけど、とりあえず決められた場所で年に一回秩序正しく騒ぐ成人式の若者にいちいち怒るなんて余裕のないことはやめたほうがいいんでないかと、わたくしは思いますです。あんなことにまなじりを決して頭から湯気を立てている大人ほどみっともないもんはありません。(p. 288)
少年のように若い将校たちが関わった二・二六事件についても、一種の少年犯罪と捉えて熱く語っている。二・二六事件は近代史のなかでいちばんよくわからない、苦手分野なのだが、無駄飯喰らいの軍人をニートに喩えて二・二六事件を「ニート頂上決戦」と名づけたり、とてもわかりやすくて納得のいく二・二六論。荒木大将を女学生に喩えているのもおもしろかった。
著者はあとがきで、次のように書いている。
虚構と現実を混同してしまっている人たちが、新聞やテレビニュースを通じて過去についてまったくの妄想を語り、それを信じた人がまた妄想を増幅するというヴァーチャルな円環ができあがって、無意味にぐるぐると回転しています。
ちょっと事実を調べさえすればこんな円環はすぐに断ち切ることができるのですが、ジャーナリストも学者も官僚なども物事を調べるという基本的能力が欠けていて、妄想を垂れ流し続けています。……(p. 291)
まったくそのとおりだと思う。「戦前はよかった」的なことを言っている老人は、自分は旧制高校で好き勝手に暴れておきながら、ノスタルジーで美化されたイメージによって妄想を語っているだけなのだろう。でも旧制高校へ行っていた世代はもうかなり死んでいて、いちばんやっかいなのは中学ぐらいで終戦を迎えた、子供のころから軍国教育を受けている昭和一ケタ世代なんじゃないかと思う。この世代は、データや論理を示しても端から聞く耳を持たず自分の妄想を語るだけ、という人が多い気がする。
著者は[少年犯罪データベース](LINK)を主宰している人で、それ以外の経歴などは全然わからないが、とりあえずペンネーム(だよね)はダサいと思う。同じことが何度か書かれていて多少くどいので、けっこう年配の人なのだろうか。
取り上げられている事件は、朝鮮人の事件が1件あっただけで(それも内地に住んでいる人)、あとは全部日本人の事件だったが、戦前の台湾や朝鮮ではどうだったのかというのが気になった。
それから少年犯罪とは全然関係ないが、全然知らなかった新宿伊勢丹の話がとても興味深かった。
…ほてい屋は昭和一〇年に伊勢丹に吸収合併されたんですが、伊勢丹は昭和八年にほてい屋をL字形にぴたっと取り囲むようにデザインそっくりのビルを建てて、二年がかりで買収して、壁をぶち壊してひとつの建物にしたのでした。なんと最初からそうする計画で新宿に進出してきて、各階フロアの高さまでぴったり同じにしておいたんだそうで、戦前の企業買収は今と違って情け容赦がありません。……(pp. 194-195)