実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『1735km』(Nguyen Nghiem Dang Tuan)[C2005-51]

急いで最寄のスタバへ行ってラテをすすり、戻ってきての2本目は、Nguyen Nghiem Dang Tuan(グエン・ギエム・ダン・トゥアン)監督の『1735km』。かなり久しぶりのヴェトナム映画。

ハノイからサイゴンに向かう列車(この距離が1735km)を舞台に、相反する性格の男女が出会い、一緒に旅をすることにより互いに影響を受けて変わっていくという話。反目しあう男女が惹かれあうというのはラブ・コメディの王道だが、この映画はコメディタッチであるにもかかわらず、期待されるような洒脱なラブコメにはなっていない。作りはふつうの商業映画的にもっさりしていて、監督の伝えたいメッセージがストレートに出ているのが(メッセージの良し悪しとは別に)うざい。時々凝った映像なども取り入れているが、あまり効果がないというか、ないほうがいいところが多い。王女の伝説と、ヒロインのおばあさんの恋愛物語と、主人公たちの恋のゆくえを重ねていると思われるが、そのあたりもいまひとつ効果的に描かれていない。何よりもまずいのは、この旅による主人公たちの変化を全部台詞で説明していることだ。

映画の良し悪しとは別に、ヒロイン(ズーン・イエン・ゴック)があまりにも鼻持ちならない女なのにうんざりする。彼女は、親の言うことをきいて決められた人生を歩んでいる女性で、予期しないことが起こったり新しいことに挑戦するのが嫌いなタイプという想定なので仕方がないが、まずはコンサバなファッションがイヤだ。ハイヒールで旅行する女って信じられない。言うことやることがいちいち癇にさわるのだが、いちばんすごいのは「おなかが痛いけれど、列車や駅のトイレではうんこ(とはっきりは言わないが)できないわ」と言うところだ。列車のトイレがイヤだというのはわかるが、「ホテルかなにかを探さなきゃ」と言うのには唖然。列車が何十分だか停車する途中のフエで、彼女は男(ホー・カイン・チン)を道連れに下車してホテル(駅前にあるならともかくタクシーで行くような場所だ)でのうんこに付き合わせ、そのために列車に乗り遅れて一緒にサイゴンに向かう旅をすることになる。誰がどうみても100%彼女が悪いのに、男の時計が遅れていたせいにして一向に反省もしない。とにかく許せない女だが、ヒロインがうんこをしていて列車に乗り遅れるという前代未聞のストーリーを企画し、美人女優にヒロインを演じさせた監督には拍手を送りたい。相手役のホー・カイン・チンは、なかなかの好青年という感じだった。

途中、古いショップハウスが美しいものとして写されているところはよかった。ヴェトナムはいつか行きたい場所だが、この映画で見る限り、サイゴンもフエもホイアンも、やたらこぎれいになっていて外国人観光客もいっぱいいて、どうもあまりソソられないところになっているようだ。私が行きたいのはハノイとダラットだけど。

上映後、グエン・ギエム・ダン・トゥアン監督とヒロインのズーン・イエン・ゴックをゲストにQ&Aがあった。監督は、アメリカ育ちだかアメリカ留学だかしているまだ30歳くらいの若い人。ズーン・イエン・ゴックは髪型もファッションも全然違っていて、映画よりずっときれいな人だった。