実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『京義線(キョンイセン)(경의선)』(パク・フンシク)[C2007-11]

今日は、マンションの消防設備の点検があるので有給休暇を取った。春はパスしたから秋はやっておいたほうがいいし、東京国際映画祭疲れの骨休めにもちょうどいい、と思ったのだが、ちょうど今日から第8回NHKアジア・フィルム・フェスティバル(公式←このサイトはほとんど画像でできていて、検索してもなかなか見つからない超不便な公式サイト)。しかも、観たいけれど土日には観られない二作品が、点検後のちょうどいい時間に、まるであつらえたようにプログラミングされている。これは行くしかないでしょうということで、骨休めはお預け(いや、別に疲れていないのだけれど)。

点検が終わって11時すぎに出かけ、COBAKABAに寄ってお昼ごはんを食べる。レンバイのすぐそばにあるこのお店は、レンバイに来るお客さんを狙っているのか、朝からやっていて朝食もあるし、休日の昼過ぎなどはよく行列ができている。今日も、平日の早い時間なのにかなり埋まっていた。比較的リーズナブルな値段で比較的健康的な家庭料理を出すお店なので、ちょこっと寄るのには重宝しているが、よそから来てわざわざ行くこともないと思う。せっかくレンバイのそばなのに、メニューが野菜中心ではないのと、これというツボにはまる料理がないのが欠点だ。

湘南新宿ラインで渋谷へ行き、雨が降りそうなので安直にバスでNHKへ(これは便利)。会場の「NHKみんなの広場ふれあいホール」は遠くて不便だし、あまり好きではないが、会場が自前だから1本500円の安さで観られるのだろう。ホールへ入ると、スクリーンというか白い部分がものすごく大きかったので、「でっかいスクリーンだ」と勝手に喜んでいたら、実際に映る部分はその7割くらい。それが横幅なのでシネスコの映画はかなり小さくてがっかり。

映画は、地下鉄運転士のキム・マンス(キム・ガンウ)と大学講師のイ・ハンナ(ソン・テヨン)を主人公に、京義線の同じ列車に乗り合わせたふたりが、乗り越して終点の臨津江駅で出会う、という話。京義線は、ソウルと北朝鮮新義州を結ぶ路線であるが、南北分断によって現在は都羅山までであり、都羅山駅は武装中立地帯にあるため、乗客はその前の臨津江駅でいったん降りてチェックを受けなければならない。映画では夜の列車だったため、臨津江が終点だったようだ。マンスとハンナそれぞれが仕事や恋愛にいきづまった状態を、行き止まりの京義線にたとえて描いている。

ふたりが列車に乗っているシーンのあいだに、フラッシュバックでそれぞれのこの1ヶ月が描かれ、彼らが抱える問題が明らかにされていく。ハンナの問題は到着までに明らかにされるが、マンスのほうは地下鉄のシーンのたびに何かが起こりそうな緊張感をはらみつつ、なかなか明らかにはされない。ふたりが出会い、マンスがハンナに打ち明けるという形で、観客も一緒にそれを知ることになる。マンスは自分の問題を話すことによって、ハンナは別の人の問題を聞いてあげることによって、それぞれが再生するという物語。この構成はなかなか悪くないと思う。

ソン・テヨンはミス・コリア出身ということだったので、勝手な偏見でコテコテの韓国美人を予想していた。しかし意外にも、ちょっと中谷美紀を思わせるような、すっきりした感じのきれいな人だった。気になったのは、ハンナが教授と不倫をしているということが、まだどんな映画かもわからない冒頭近くで明らかになってしまうこと。「また不倫か」と、正直うんざりしてしまう。『夏が過ぎゆく前に』[C2006-16]でも似たような設定があったし(正確には不倫ではなかったけれど)、最近では『遠い道のり』[C2007-08]で桂綸鎂が不倫していた。若くて美しい女性はそんなにみんな不倫しているものなのだろうか(その前に魅力的な妻子持ちの男性がそんなにいるのか)。賢い女性(たいていインテリ)が男を見る眼がなく、つまらない男性(たいてい社会的地位だけはある)と不倫をしているというのはあまり気持ちのいいものではない。恋愛の悩みや傷を持たせるのが目的なら、なにも不倫でなくてもいいし、そのほうが共感が得られると思う。

結末が母性愛的な形になるのも、私の苦手なところである。Q&Aで監督が『恋人までの距離〈ディスタンス〉』[C1995-09]を引き合いに出していたが、あの映画は「ここまで引っぱっておいて、結局最後は寝ちゃうわけ?」と思ってがっかりした。しかしこっちはあまりにもロマンスの香りがなさすぎだと思う。もう少し微妙な感じになってもいいのではないか。

ストーリーに南北問題が直接関係するわけではないが、ハンナをドイツ文学研究者に設定し、ベルリンへの留学体験や、統一後のドイツの問題などを語らせることにより、南北統一への期待と不安を絡ませている。博士号を取っても職がないとか教授になれないとかいった韓国の事情が垣間見えるのも興味深い。

終映後、パク・フンシク(漢字がわからない…)監督をゲストにQ&Aがあった。司会者が元アナウンサーで、いらんことをべらべらべらべら喋るので疲れた。監督はもっと若い人かと思っていたが、けっこうおじさん。地下鉄の運転士たちに見せたら「家族には見せたくない映画」と言われたらしいが、とりあえず観たら鉄道自殺だけはしないようにしようと思う映画である。