実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『思い出の西幹道(西幹道)』(李継賢)[C2007-10]

雨の中、朝から渋谷へ。Foodshowでフォーを食べ、シアターコクーンへ行く。今日の1本目、映画祭14本目は、コンペティションの『思い出の西幹道』(映画生活)。監督は李継賢(リー・チーシアン←このカタカナ表記は間違っている)。コンペティションだし、日中合作だし、全然期待していなかったのだが、今年の映画祭で初めてまともな中国映画を観た(「2007東京・中国映画週間」がひどすぎるだけなのだが)。日本の会社は金を出しているだけらしく、内容的には純然たる中国映画。

舞台は1978年の北方の町、西幹道。工場勤めの兄と小学生の弟が両親と暮らしている。そこに北京から一人の少女が引っ越してくることによって起こる出来事を描いた映画。兄の四平(李傑)を主人公に、方頭と呼ばれている弟(張登峰)の視点から描いている。四平は工場に就職しているが、出勤せずにラジオを改造したりして暮らしている。文化大革命はすでに終わり、改革開放はいまだ始まっていない時代、と監督がティーチ・インで言っていたが、軍隊に入隊するまでの間ぶらぶらして過ごしている四平のモラトリアム的な時間を、そのような時代状況に重ねて描いているのだと思う。おとうさんは医者なのに、四平はしがない工場勤めなのも、文革の影響で十分な教育を受けることができなかった世代を表しているのかもしれない。そのような時代の、古いモラルに縛られながらも詮索好きな人々の住む、閉鎖的な田舎町。未来の見えない若者たちの希望は、ラジオで海外(おそらく台湾)の音楽を聴くことだ。このあたりの時代背景は、『プラットホーム』[C2000-19]の最初のほうと重なる。

北京から来た少女(沈佳妮)は、映画の中ではそんなにきれいでもかわいくもないが、ちょっと垢抜けていて、踊りが踊れて、スタイルがよくて身のこなしが颯爽としていて、ほかの子とはどこか違う(でも、ブラウスの下に花模様のランニングを着ていたのは絶対違うと思う。もっとババくさい厚着をしているはずだ)。四平も方頭も彼女に憧れるが、この兄弟の間のライバル意識がかなりすさまじかった。方頭は、その個性的なルックスに加えて、突然頭突きしたり裸で穴に飛び込んだりする衝動的な性格の持ち主で、抜群の存在感を示している。

スタイル的には、フィックスのキャメラ、ロングショットの多用、長回し気味と、私の好みが揃っている。町に線路が走っていて、登場人物が線路の上を歩いていくところや、四平が拠点にしている特異な外観の建物や、彼らの汽車通勤・通学の様子、冬枯れの色を基調としたトーンなど、画もなかなかいい感じだ。ロケ地は山西省とのことで、やはり中国映画は山西省四川省である。

兄は亡くなり、弟は町を去って、すべては思い出の箱の中に閉じ込められる。それをそっと開くように、ロングショットで綴られる過去の物語。よく考えて作られており、実際かなりよくできていると思う。でも何かもうひとひねりほしい、どこか物足りない気が私にはした。どこか頭先行の感じがするからなのか、それともつい『プラットホーム』と比べてしまうからなのか。

上映後、李継賢監督、沈佳妮(シェン・チア二ー)、脚本担当で監督の奥さんである李薇(リー・ウェイ)によるティーチ・インがあった。着飾って出てきた沈佳妮は、映画の中とはかなり印象の異なるきれいな人だった。ちょっと(若いころの)呉倩蓮(ン・シンリン)みたいな感じ。

ところで、“西干道”というのは簡体字表記だと思うのですが、繁体字表記は“西榦道”で合っているんでしょうか。どなたかご教示いただければ幸いです。
(【2007-10-31加筆】“西幹道”でよさそうなので、とりあえずそうしておきました。)