実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『天堂口(天堂口)』(陳奕利)[C2007-09]

渋谷でもかわりばえせずセガフレードでパニーニを食べ、オーチャードホールへ。今日の2本目、映画祭13本目は陳奕利(アレクシ・タン)監督の『天堂口』(公式)。提携企画の「香港映画祭」(公式)の一本である。予想されたことだが、ドンパチ映画なのに観客は女ばっかり。

呉彦祖(ダニエル・ウー)、舒淇(スー・チー)、劉菀(リウ・イエ)、張震(チャン・チェン)、楊祐寧(トニー・ヤン)、李小璐(リー・シャオルー)、孫紅雷(スン・ホンレイ)、高捷(ジャック・カオ)という超豪華キャストによる上海暗黒街もの。張藝謀(チャン・イーモウ)の『上海ルージュ』[C1995-45]呉宇森(ジョン・ウー)の『ワイルド・ブリット』[C1990-41]を足したような映画。出来が悪いらしいことは聞いていたので、楊祐寧、張震、劉菀を見るのを目的に全然期待せずに観たらけっこう楽しめた。

とにかく、これは張震の映画である。張震(役名が馬克であることは、特筆しておくべきだろうか)がもうめちゃくちゃかっこいい。にこりともしない顔といい、ドンパチシーンの身のこなしといい、すばらしい。「これが殺し屋だ」という台詞が終盤にあるが、殺し屋のプロ意識がみなぎっていて、他を圧倒している。最初の登場シーンから、動いていようと止まっていようと、張震が映ると空気が変わる。張震は『牯嶺街少年殺人事件』[C1991-16]のころから好きな俳優だが、ファンというより、俳優として好きというか、台湾映画界を担う人として期待していた。もともと端正な顔立ちだけど、どこかまぬけなところがあって、役柄としてもこれまでそういう感じを生かしたものが多かったと思う。ところが今回は、にこりともしないクールな役。張震を見るためだけでも必見の映画である。

劉菀も、『藍宇』[C2001-07]などからは考えれない成り上がり者の役をやっていて見ごたえがある。ほとんど天知茂に見えましたが。主役は呉彦祖で、様々な価値観のあいだで悩む複雑な役だが、これは全然ダメ。もともと脚本とかの段階でしっかり描かれていないということもあるし、呉彦祖には全然思い入れがないせいもあるが、そもそも彼にこんな役は無理なのではないか。そういう意味ではこの役を劉菀にふったほうがよかったと思う。

映画の出来としてはたしかにいまひとつである。主要な登場人物が多すぎて、うまく描き分けられていないし、ひとりひとりも十分掘り下げられていない。そもそも劉菀が簡単に成り上がりすぎるし、登場人物の行動が無防備すぎる。挙げればきりがないが、呉彦祖張震のあいだの、惹かれあう感じというか、要するにあやしい雰囲気が表現されていないのも不満である。そういう意味でも呉彦祖が劉菀だったら、という気がする。

唐突だが、張震舒淇で『セクシー地帯』のリメイクはどうですか? 舞台は澳門(マカオ)で。