実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『野獣の青春』(鈴木清順)[C1963-06](DVD)

栗茶巾を食べながら、鈴木清順の『野獣の青春』を観る。

野獣の青春 [DVD]

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たしかにたいへんおもしろい映画だ。ある意味『用心棒』[C1961-11]みたいなストーリーだが、もちろん『用心棒』よりずっとおもしろい。にしていたが、いくらなんでもと思いに格上げ。でも、J先生みたいな一部の濃いファンのようには熱狂できない(私の清順いちおしは『東京流れ者[C1966-10])。

スピーディな展開がこの映画の魅力だが、それは一方で欠点でもあるように思う。展開がスピーディすぎて、自分で考えたり、観たものをゆっくり味わう暇もなく、答えや新たな情報や次の展開がやってきてそれに呑み込まれてしまう。『三つ数えろ[C1946-01]や『リオ・ブラボー[C1959-26]を連想させたりもするラストシーンはすごくいい。だけど、めまぐるしい展開のなかで、変わったキャラクターとか遊びの部分が必要以上に目立ってしまって、宍戸錠演ずるジョーが元同僚の刑事の死の真相を追っていくというストーリーが埋没してしまっているぶん、ラストの衝撃がうすい。ちなみに、『日活アクション無頼帖』[B1248]で指摘されていた、最後にあったかもしれないすだれショットはなくて正解だったと思う。ないほうが恐い。

ヘンな人ばかり登場するなかで、自分を陥れ、同僚を殺した人間に復讐しようとする主人公のジョーは、実はかなり真面目な人物である。宍戸錠が演じているので一見そうは見えないが、よくよくみるとけっこうミスマッチである。ほかの登場人物では、以前観た記憶では川地民夫の印象が非常に強いが、あらためて観てみると意外に出番は少なかった。江角英明は、少しアタマが弱そうな役のせいか、ヘンタイ度が足りなくて物足りない。『関東無宿[C1963-07]のダイヤモンド冬こと平田大三郎が、端役ながら妙にかっこよく見える。

テレビ向きの映画ではないことはたしかで、暗闇で没頭して観ると少し印象も変わるだろう。久しぶりにスクリーンで観ろということなのかもしれない。