実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『赤道を駈ける男』(斎藤武市)[C1968-25]

昨日は久しぶりに映画を観たのに満足度がいまいちだったので、口直しにスカパーで録画したての『赤道を駈ける男』(映画生活/goo映画)を観る(4月にリクエストしたのだが、やっと放送してくれた。ありがとうございます。『月は上りぬ』もよろしく)。これは小林旭が自分のプロダクションで作ったもので、渡り鳥シリーズを中心とする日活時代の小林旭の集大成的な映画である。

まず配役がいい。主演はもちろん小林旭で、日本からリオ・デ・ジャネイロまでやってきて、彼を追いかけまわすのが、丹波哲郎内田良平郷硏治。文句のつけようのない超豪華メンバーである。アキラとタンバのツー・ショットなんて、ほかにあまりないのではないだろうか([日本映画データベース]によれば8本で(LINK)、60年代は2本しかないうちの1本)。3人のなかでいちばん「アキラ好き好き」な役は内田良平で、アキラと内田良平とのツー・ショットもけっこうある。宍戸錠を意識しているのか、内田良平が大げさで下品な芝居(宍戸錠の芝居が大げさで下品なわけではない)をしているのがちょっとイヤだけれど。

ヒロインが若林映子というのがまたいい。今までような日活の女優では出せない、大人の魅力たっぷりである。外国ロケ映画で丹波哲郎若林映子というのは、今思えば、前年の『007は二度死ぬ』効果を狙った配役であろう。英語はほとんど必要ないこの映画で、若林映子が英語ペラペラぶりを披露する一方、タンバは英語がわからないふりをして、もちろんポルトガル語もわからず、「ブラジルに来て日本語が通じるので助かりました」などとマヌケな台詞を吐いているのが楽しい。悪役は金子信雄と内田朝雄。こちらのツー・ショットもたっぷりで、J先生大喜び。今回は呉の長老に軍配が上がり、「あなたが死んだらみんな大喜び。今日はちょうどカルナヴァルだし」ということで、山守親分はあっけなく殺される。お気の毒さまっ♪

リオに向かうタンバが、おなじみパン・アメリカン航空の機内あるいは空港で珍問答を繰り広げようと、再会するアキラと若林映子、あるいは対決するアキラと内田良平の顔がわざとらしくズームアップされようと、イグアスの滝の上のほうから若林映子が落としたペンダントが、下のほうにいる内田良平の足元に落ちるというありえない偶然が起ころうと、私のこの映画に対する愛着が揺らぐことはない。しかしながら、ただひとつ残念なこと。それはアキラである。まるい…。渡り鳥シリーズと同じように、ナルシスティックに目を細めようとも、身軽に街を駈けぬけようとも、海に向かってギターを弾こうとも、まるい、まるいのだ。5年前の回想シーンがあるが、1963年といえば『関東無宿[C1963-07]の年。アキラは決してそんなにまるくなかったよ、と言いたい。このあと彼はそのまるさを貫禄に変え、『仁義なき闘い』シリーズの武田になっていくのだろう。

音楽がとても美しく、アキラの主題歌もいい(この曲が入っていないのが大滝詠一監修のCDシリーズ(アキラ 1アキラ 2アキラ 3アキラ 4)の汚点である)。リオ・デ・ジャネイロロケは、街中のごちゃごちゃしたところが全然出てこないのは残念だが、アキラは長い石段を上ったところに住んでいて、なかなかいい雰囲気。ほかのロケ地は、「けっこうロケ地わかりそう」という安心感を与えてくれるところがよい。リオだけではなく、イグアスの滝も出てくる。イグアスからリオまでは直線で1000キロくらいあるが、登場人物たちはいとも軽々と移動する。「明日の朝、イグアスの滝で待っている」と、アキラに手紙を残す内田良平。「行けるかよ」「会えるかよ」と私はつぶやくが、もちろんちゃんと会える。それにしても、立ち入り禁止のところででも撮っているのか、遮るものが何もなくて圧倒的。王家衛(ウォン・カーウァイ)はこの映画を観て『ブエノスアイレス[C1997-04]を撮った…わけないか。