実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『マレー半島 美しきプラナカンの世界』(イワサキチエ、丹保美紀)[B1233]

マレー半島 美しきプラナカンの世界』読了。こちらに著者のブログ、[マレー半島モンスーン寄稿]がある。

マレー半島―美しきプラナカンの世界 (私のとっておき)

マレー半島―美しきプラナカンの世界 (私のとっておき)

マレー半島のプラナカン文化についての本。マラッカ、ペナン、シンガポールの、プラナカンに関連する建築、博物館、レストランなどをガイド的にたどる構成で、ショップハウスやそのインテリア、ニョニャ料理やお菓子、サロン・クバヤやビーズ刺繍といったファッションなどを多数の写真と共に紹介した、たいへん美しい本である。プラナカンについては以前から興味があったが、あまり情報がなかったので、このような本が出たことはとても嬉しい。特に、知識がほとんどなかった料理やお菓子について具体的に書かれていてよかった。

私が最後にペナンへ行ったのは1997年だが、そのときはおしゃれなお店なんてなかった。マラッカは、1996年に行ったときはほとんどなかったが、1999年にはアンティーク・ショップやプラナカンのレストランやホテルが増えていた。実際The Baba House(僑生客棧)に泊まったし、ニョニャ料理も食べたが、まだそれほど多くなかった。しかし今のペナンやマラッカは、私が見たときからかなり変貌しているようだ。レストランやお店にすることで古い建物が保存されるのは基本的には喜ばしいが、おしゃれでもこぎれいでもないジョージタウンの街並みと、ローカルな街角のコーヒーショップが大好きだった私としては少し複雑である。プラナカン文化にしても、継承されたり広く認知されたりするのはよいことだが、こういう本を見た女の子たちが「かわいいー」と言って群がり、表層的に消費されてしまうのではないかという懸念もある。

プラナカン社会とそれ以外の華僑社会が、どのように別のものとして成立し、その境界はどうなっていたかといったことがもっと知りたいと思った。『ペナン 都市の歴史』[B113](asin:4761521503)にある程度書かれているし、あまり昔のことはわからないのかもしれないが。また、プラナカンではない富裕な華僑・華人もプラナカン・スタイルの家を建てたのではないかと思われるので、プラナカン建築=プラナカンの家というわけではないと思うが、そのあたりがこの本では曖昧に感じた。

ガイド風の構成にもかかわらず地図がない点と、中国系の名前や中国語語源の地名や言葉に漢字表記がない点が不満である。それに「ファイブ・フットウェイ」はいくらなんでもひどすぎる。「カキ・リマ」か「五脚基」と書くべきだ。過剰な形容表現や、日本語がおかしいところも気になった。

アテネ・フランセ文化センターで来週から開催される「ヤスミン・アハマドとマレーシア映画新潮」(国際交流基金映画講座)(公式)で、『細い目』[C2004-32]、『鳥屋』[C2006-07]、『グッバイ・ボーイズ』[C2006-06]を観る方は、事前にこの本を読んでおくと「ピピッ」とくるところがあると思う(必ずしもプラナカンに関連するとは限らないが)。この特集はどれもお薦めだが、 日本マレーシア友好年記念だというのに、平日中心のこの短いスケジュールはひどすぎる(しかもアテネ)。