実録 亞細亞とキネマと旅鴉

サイトやFlickrの更新情報、映画や本の感想(ネタばれあり)、日記(Twitter/Instagramまとめ)などを書いています。

『子供の四季』(清水宏)[C1939-17]

台風の大雨の中、朝からシネマヴェーラ渋谷の「清水宏大復活!」(LINK)へ。ふつうの映画なら出京をみあわせそうな天気だが、『子供の四季』が今日だけモーニングショーで上映されるとなれば、行かないわけにはいかない。同じ考えの人はたくさんいるとみえてほぼ満席だが、まるで格闘技系映画のように男性ばかりなのはどうしたことか。

善太(葉山正雄)、三平(爆弾小僧)の兄弟を中心に、両親と祖父母との和解、父の死とそれに伴う引っ越しや転校、祖父の会社の乗っ取りの陰謀、進学問題といった一年間の出来事を、季節とともに描いている。大人の世界の出来事が子供たちに暗い影を落としつつ、時に子供たちはそれに強く抵抗し、大人の世界に影響を及ぼしていく。原作者が同じで出演者も重なるため、『風の中の子供[C1937-11]との共通点が多い。フィルムの状態が悪く、台詞がよく聞き取れないうえに、画面がかなり暗かった。

野外の撮影がいつものようにすばらしく、春夏篇の舞台である農村もいいが、繰り返し写される橋や蔵のある風景など、秋冬篇の舞台の町がとりわけよかった。フィルムの状態がよかったらどんなにかすばらしいだろうと思うと残念でならない。出演者では、爆弾小僧がとりわけすばらしく、戦前の子役といえば突貫小僧より爆弾小僧だと思う。この映画では、ある場所を去るときにすぐに向きを変えるのではなく、正面を向いたまま数歩後ずさってから、くるりと後ろを向いて去って行くのが印象的だった。なお、河村黎吉と日守新一が揃って出ていながら、全く笑わせてくれなかったのは少し残念。

後半、老獪(西村青児)による会社乗っ取りの陰謀が物語の中心となるが、いずれその陰謀が失敗し、ハッピーエンドになることははじめから予見されている。しかしそれがどういう形になるかは全くわからないうちに、老獪は目を痛め、それがだんだんひどくなっていくさまが、何の説明もないまま映し出される。それはまるで、彼の陰謀が失敗する以前にすでに罰を受けているかのようである。ついに黒い眼鏡をかけて現れるシーンで彼は失脚するのだが、そこまでの成り行きは異様に不吉な雰囲気を醸し出していた。