実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『京都 絵になる風景 - 銀幕の舞台をたずねる』(吉田馨)[B1220]

『京都 絵になる風景 - 銀幕の舞台をたずねる』読了。京都が舞台・ロケ地の映画を、寺社や通りといった細かい単位で場所別に紹介したもの。自称ロケ地研究家としては、とりあえず読まなければならない本だ。

以前にも書いた(id:xiaogang:20050807#p1)が、こういう本を作る場合、大まかにいって、映画別に構成するか場所別に構成するかという問題がある。ほかにもいろいろな視点があるので、単一の構成にしようとすれば、どうしたって満足のいくものにはならない。

この本は場所別の構成なので、同じ映画の紹介があちこちに出てきて、しかもそれを全部読んでもその映画の全体像は掴めないのが不満だ。『夜の河』(吉村公三郎)[C1956-19]、『古都』(中村登)[C1956-19]、『お引越し』(相米慎二)[C1993-03]、『パッチギ!』(井筒和幸)[C2004-23]といった、「京都映画」と呼びたいような映画は、やはり映画別の紹介がほしいところである。また、京都が舞台・ロケ地といってもいろいろある。生活や仕事の場としての京都ももちろんあるが、旅先として描かれているものや、別の場所の想定でロケが行われているものもある。旅先として描かれているのも、他の場所を想定したものも、他の都市に比べ圧倒的に多いと思われるので、こういった視点での映画別の分類もほしい。特に、旅先として京都がどのように描かれているかを分析してみるとおもしろそうだ。

場所別の構成の場合は、区域別に並べるのが一般的である。そうすれば、区域ごとの雰囲気の違いを説明したり、ある区域全体を舞台とする映画をうまく紹介することもできる。また、外部から京都を訪れる人に対して、いろいろな場所をどうまわるか、プランニングする助けにもなる。しかしこの本は、そのような構成になっていない。別に区域別でなくても、そこに面白味や納得性があれば文句はないのだが、この本の構成は疑問だ。「春夏秋冬」「山も川も」「風景を歩く」「神社仏閣」「食の楽しみ」「おしゃれ」「京の暮らし」と、一見もっともらしく分類されているのだが、なぜその場所がそこにあるのかわかりにくかったり、映画とは無関係にこじつけられていたりする。いくらなんでも、もうちょっと工夫のしようがあったと思う。

それぞれの場所の記述には、いろいろなことが広く浅く書いてある。ロケ地との関係だとかロケ地の変化だとかそこで撮られた映画の比較だとか、もう少しロケ地に関連した分析なり考察なりがほしい。各場所に2ページずつ割り当てられ、その最後のところに「映画になった○○」(○○に場所の名前が入る)というコーナーがあるが、文中で言及されていてもその場所とは関係のない映画まで載っているし、言及されているのに載っていないものもある。これではリファレンスとしても使えない。選ばれている映画には個人的なこだわりがあまり感じられないが、主要な京都ロケ映画をカヴァーするつもりなら、『宗方姉妹』(小津安二郎)[C1950-07]西陣の姉妹』(吉村公三郎)[C1952-14]、『女の園』(木下恵介)、『愛染かつら』(木村恵吾←鶴田浩二様ご出演ヴァージョン)[C1954-V]、『美しさと哀しみと』(篠田正浩)[C1965-03]などが抜けているのが問題だ。

京都と映画にちょっと興味のあるふつうの人向けの軽い本なので、あまりマニアックな内容を求めてもしかたがないことは、いちおうわかってはいる。ところで、ですます調で書かれた本ってどうも好きになれないな。