実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『アジア秘密警察(亞洲秘密警察)』(松尾昭典)(DVD-R)[C1966-V]

松尾昭典監督の『アジア秘密警察』をDVD-Rで観る。邵氏(ショウ・ブラザーズ)との合作の香港・澳門(マカオ)ロケ映画。

主役に二谷英明を選んだところで、すでに傑作になる資格を放棄している。日本公開版と香港公開版の2ヴァージョンが作られたらしいが、香港版の主役は王羽(ジミー・ウォング)だから全然負けている(現代劇だし、王羽というのもちょっと微妙だが)。どうせ香港版は差し替えだから二谷でいいや、という配役なのだろうか。これはやはり小林旭で観たいところである。王羽の香港版ももちろん観たい。ヒロインは、すでに頬がこけて目のまわりが黒くなった、化け物化しつつある浅丘ルリ子である。

一方、悪役は豪華に宍戸錠、郷鍈治兄弟だ。誰だって悪役を応援しますわ。宍戸錠はマレー人との混血で、日本人の父親に捨てられたせいで日本を憎んでいるという設定。しかし、それがお手軽に台詞で語られるだけなので、いかにも深みがないし、だいたいこのような余裕のない役は宍戸錠には合わない。ちなみに、宍戸錠が「ニッポンジンはひどいやつばかりだ」と言うと、二谷が「そんな悪いニホンジンばかりじゃない」と返すのが意味深である(台詞はいいかげん)。郷鍈治は宍戸錠よりも見せ場が多いが、「おっ」と思わせたわりにあっさり殺されたりして、いまひとつ魅せ足りないのが残念。

ロケ地選びはけっこう魅力的である。香港では、さりげなく山頂餐廳(ピーク・カフェ)が出てくるし、路地の追っかけシーンもある。澳門では、お約束(?)の大三巴牌坊(聖パウロ天主堂)も出てくるし、曲がりくねった坂道でのカーチェイスもある。観光映画っぽくいかにもというふうに写さないのはいいのだが、全体にカットが短くじっくり見せてくれないのと、歩いたり走ったりしているのが二谷では絵にならないのとで、どうにも中途半端である。

言語に関しても中途半端である。日本語ネイティブではないという設定の宍戸錠は、一貫して外国語訛りの日本語を話している。また、殺し屋として敵に潜入している、本当はアジアポールの王�は、二谷にそのことを伝えるためにフランス語を話す。このように、一見、言語に対するこだわりがあるようにみえる。ところが、香港や澳門のシーンで、香港の刑事や澳門のギャングやバンコクから来た中国人がみな日本語を話している。アジアポールの二谷は当然いろいろな言語が話せるだろうから、ここは本当は広東語(あるいは北京語)を話しているのだろうと解釈してあげてもいい。だけど、最後に二谷が王�に浅丘ルリ子の日本語の手紙を見せ、王�はそれを即座に理解する。宍戸錠はカルロスという男に対しても外国語訛りの日本語だ。ここは本当は何語だろうと気にし始めるとかなりイライラする。

お約束のパンナムの機体は二度ほど登場する。いずれもわりに控え目だ。でも二谷が空港のカウンターで、「君が一番美人で親切だと聞いたから、パンナムを選んだんだけど」(うろおぼえ)と言う。そういう台詞はあんたには似合わんよ。

いろいろな面で、先行する石井輝男の香港・澳門ロケ映画を強く意識したような作品だが、もちろん石井輝男作品には遠く及ばない。ロケ地と郷鍈治は、スクリーンで観るともう少しインパクトがあるかもしれない。どこかの劇場で上映してくれることを希望する。