実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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“不散(楽日)”(DVD)[C2003-03]

蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督の『楽日』を台湾版DVDで観る。この映画は、東京国際映画祭と台湾でのロードショーとで2回観ている。このDVDは2年以上前に買ったものだが、実は観るのは初めて。久しぶりに観た感想をちょっとだけ書く(初見のときの感想はこちら(LINK))。

  • これは観る映画というより体験する映画である。この映画のなかでは三つの物語が進行しているが、陳湘琪(チェン・シャンチー)に、あるいは石雋(シー・チュン)に、あるいは三田村恭伸になって、それを一緒に体験することができる。
  • この映画で、蔡明亮が陳湘琪を一見さえない女性のように装わせているのはなぜか? それはすべて、スクリーンを裏から見上げる彼女の美しさを際立たせるためだ。ここで彼女の美しさを見せるため、それまで出し惜しみをさせているのだ。
  • 観客席の石雋は、最初は斜め後ろからほとんどそれとわからないように、そしてだんだんはっきりと映し出され、最後は涙まで映し出される。はっきり涙を流すのではなく、うっすらと滲んだ涙がスクリーンの明かりでかすかに光るのがいい。
  • 陳湘琪が李康生(リー・カンション)を諦めるのはなぜだろうとなんとなく思っていたが、映画館がなくなってしまうからであるということで納得した。映画館がなくなれば世界もないのだ。
  • エンディングの姚莉(ヤオ・リー)の“留戀”について。原曲の『チャイナ・タンゴ』よりスローでしっとりした感じだと勝手に勘違いしていたが(あちこちにそんなことを書いたような気がする)、たぶんアレンジは同じである。姚莉の声や歌い方、北京語の響きなどから、そういう感じを受けるだけだ。

『楽日』は現在ユーロスペースでロードショー公開されているが(公式)、上述のとおり2回観ているので行かなかった。でもやはり観に行くべきではなかったかと少し後悔している(今週いっぱいのようなので、たぶんもう行けない)。これは明らかに映画館向けの映画だ。画面が暗いし、音が重要である。また、フィックスの長回しが多いが、そこで起こるすべてのこと、ちょっとした空気の震えさえも見逃せない、見逃したくない、と思わせるので、異様に画面への集中を要求する。テレヴィ画面や自宅の環境では十分に味わえない。ヒットしているという噂も聞かないので、できるだけ多くの人に観に行ってほしいと思う。胡金銓(キン・フー)監督の『龍門客棧(血斗竜門の宿)』を観てから行くほうが絶対に楽しめる。

ところで、ブログなどで『楽日』の感想を見て気になることがふたつある。まず、多くの人が「台北の古い映画館」と書いていること。これは解説にそう書いてあるからだと思うが、福和大戲院があるのは台北市ではなく永和市である。永和市は台北縣にあって台北市と隣接しているので、大台北圏という意味では「台北にある」というのは嘘ではない。それにたいていの人は台北市だろうが永和市だろうが気にしないだろう。単に私は気になる、というだけである。

それから、『迷子』(李康生監督)のほうは観ていない人が多いらしく、「苗天(ミャオ・ティエン)とその孫」と書いている人が多い。でも苗天の孫じゃないですから。「えっ?」と思った方はぜひ『迷子』を観てください(こちらも今週いっぱいのようだが)。