実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『客死』(『邱永漢 短編小説傑作選 - 見えない国境線』所収)

『裏切られた台湾』のエントリー(id:xiaogang:20060824#p1)で、「国連による信託統治アメリカの介入に関することを扱った邱永漢の初期短編小説がある」というコメントをいただいた。それが『客死』という小説であることを、コメントをくださったせんきちさん(まぜるなきけん)から教えていただき、今日読むことができた。

邱永漢 短篇小説傑作選―見えない国境線

邱永漢 短篇小説傑作選―見えない国境線

『客死』は、東京に亡命した林献堂をモデルにした小説である。朝鮮戦争の停戦の代償として、台湾が国連の信託統治になるかもしれないという事情を背景に、国民党が台湾人の支持を得るため林献堂(小説では謝万伝)を省主席にしようとする話を扱っている。主な登場人物は、東京で台湾独立運動にかかわっている年齢も経歴も異なる4人の台湾人で、なかなか興味深い小説だった。

この小説中で謝万伝は、次のような考えを述べている。

  • 将来、アメリカが中共との外交関係を回復する条件として、台湾の中立化を実現しなければならなくなるだろう。
  • 蒋介石が死ねば国民政府は瓦解する。
  • 国民政府は二・二八事件で懲りているので、台湾人を武装させることはないだろう。

これらがすべて林献堂の考えそのものなのか、また当時の台湾人知識人の一般的な考えなのかどうかよくわからないが、いずれも当たらなかったことになる。