『昭和の劇 - 映画脚本家・笠原和夫』読了。笠原和夫の歯に衣着せぬインタビュー本。
- 作者: 笠原和夫,スガ秀実,荒井晴彦
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2002/10
- メディア: 単行本
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巻末のリストを見ると、笠原和夫の映画脚本は全部で114本。このうち映画化されたのが94本。私が観ているのはわずか22本で、家で観たのを入れても25本にすぎない。この本では、映画化されなかったものも含めて約60本の脚本を取り上げているが、インタビュアーがそれらの脚本を読み、映画も観てインタビューに臨んでいるためか、かなり充実したインタビューになっている。私の中では、「映画人+インタビュー+分厚い=ワイズ出版」という数式ができあがっているので、ワイズ出版の本だと思い込んでいたが、それにしては文章がきちんとしていて読みやすい。いつものワイズ出版の本のように、録音を起こしたままみたいな、文法もおかしい、意味も通っていない、重複も多い…というのではない。おかしいなぁと思ったら、これは太田出版の本だった。なるほど。
話の内容は、企画の経緯や取材から得た歴史の裏話(本当だか嘘だかわからないような話満載でおもしろい)、脚本に込めた思いや意図、監督との確執やできた映画の評価といったもの。
笠原和夫という人は、自身の戦争体験にこだわり、それに基づく独自の思想をもっていて、その中心には痛烈な天皇制批判がある。その考え方には、賛同できるところもあれば賛同できないところもあるが、一本筋が通っていて、それが脚本に反映されている。しかしながら、当時の量産体制のなかで、脚本に込められた意図が監督に理解されないままに撮られ、凡庸な作品になってしまったものも多々あるようだ。脚本の意図どおりに撮られたのを観てみたかったと思う映画がたくさんある。
一方で、笠原氏は批判しているけれど、これでよかったんじゃないかと思うものもある。たとえばマキノ雅弘(雅広)について、マキノ監督はリアリズムがわからないとか、せっかく自立した女性を書いても自分好みに変えてしまうとか、いろいろと文句を言っている。だけど誰もマキノの映画にリアリズムは求めていない。私だって自立した女性が好きだが、マキノの映画ではあのマキノ独特のかわいい藤純子が見たいし、ほかの人が撮ったら絶対くさくさなのにマキノが撮ると見事にはまるあの独特のメロドラマが観たい。そういうものだ。笠原氏は文句たらたらだけど、よい脚本とよい監督が出会ったとき、たとえ脚本家と監督の好みが合わなくても、傑作が生まれることもあるのだ。ほかの監督についても言いたい放題で、彼の脚本に耐えられる監督は深作欣二と山下耕作だけらしい。要するに、『仁義なき戦い』(asin:B00005L9NR)と『博奕打ち 総長賭博』(asin:B000GPPL3U←ついに出るようですね)が最高傑作ということか。もちろんこの二人についても文句言いまくり。
この本を読むと、いろんな映画を観たくなる。日本侠客伝シリーズも、やはり全作揃えて通し観すべきではないかという気になって、つい通販に走ってしまいそうだ。だけど何にも増して観たくなるのは、やはり『仁義なき戦い』シリーズ。全5作を通し観したくてたまらない。週末をあてるのはリスキーなので、台風が来て電車が止まることに期待しよう(週末でも有休でも、とにかく観ちゃったほうがすっきりするのだが、一日で観るのはなかなかたいへんだ)。